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#001 任意継続被保険者制度のルールと禁煙ホテルの張り紙

多くの会社員が退職後によくお世話になる任意継続被保険者制度において、令和4年1月から被保険者からの申し出による資格喪失が可能となったというニュースを読んで苦笑しました。

これまでは退職翌日から20日以内に申し込み、一度この保険制度に加入すると2年間は継続する「義務」がありましたが、今後は被保険者の判断で加入期間中にいつでも国民健康保険等への変更ができるようになったという制度柔軟性の向上らしいですが、現実としては何も変わっていないというのが私の受けた印象です。

なぜならば、これまでも「2年間の継続義務」と同時に「毎月の支払期限までに保険料を納付しないと任意継続被保険者の資格を喪失する」という規定が併記されていたからです。

つまり、本人の収入減や扶養家族の減少等で国民健康保険に切り替えた方が割安になる場合には、任意継続被保険者としての翌月分保険料を敢えて払わないことにより除名してもらい、国民健康保険に乗り換えることがテクニカルに可能でした。

そう考えると今回の任意継続被保険者制度のルール変更は、脱退希望時の健康保険組合への連絡手段に関して「未納」に加えて「通知」の選択肢ができただけと言える訳です。

似たような話は世の中にいくらでもあります。

最近は全館禁煙のホテルが増えてきており、部屋の中に「喫煙された場合は清掃費として1万円を申し受けます」というような間接的な警告文を見かけることがあります。

しかしこれは道徳上と健康上の問題を横におけば、「1万円を払えば室内喫煙OKですよ」と読み替えることができます。

「1万円払ってまでも室内禁煙する人などいるわけがない」というのはただの思い込みであって、喫煙習慣のある宿泊者からすれば、実際に室内で喫煙するかどうかは別にして「追加料金さえ払えば部屋で下着姿になってテレビ見ながらビールでも飲んで煙草が吸える」という選択肢を無料で手に入れたことを意味します。

(無論、実際に何度も禁煙ルームでの喫煙を繰り返すと、特にチェーン展開しているホテルではブラックリストに載ってしまい宿泊予約そのものが将来的に拒否されてしまう可能性が高くお勧めはしませんが。)

自分に届くメッセージを特定の先入観に基づいてのみ受け取る必要はありません。

上記2つの例は敢えて共に「ひんまがった」解釈による自己正当化的なものをあげてみましたが、反対のケースとして受け手側の性善説にたった解釈を前提に罠のような仕掛けが含まれたメッセージを見かけることもあります。

自分が受け取る乃至は発信するメッセージに対して複数の解釈が可能か否かを常に検討する習慣は大切です。

追記:

ちなみに、任意継続被保険者制度のルール変更前のメッセージは単に「中途脱退不可」、禁煙ホテルの張り紙は「室内喫煙禁止」という単純明快な言葉だけを使うか、未納者や違反者にはその結果に対して無制限な責任を負わせる表現にしておくことが正解でしょう。

2022年05月20日

#002 選挙で買収される有権者と仕組債を購入する投資家

最近はあまり聞きませんが、以前は時々有権者が数千円の「小銭」をもらって特定の選挙立候補者事務所に買収されるという事件がありました。

もちろんこれは完全な違法行為ですが、物事の本質としては「目先の小銭に釣られて自分が持っている自由とか権利というものを安売りしてしまうと、後でとんでもないしっぺ返しを喰らわせられる可能性が高いぞ」ということを意味しています。

先日、ある証券会社から年利5%以上の「債券」の購入を提案されました。その商品の高利率の魅力と相対的安全性を熱く説明頂きましたが、端的に言うとそれは「プットオプションの売り」が仕組まれた株価連動債系というものだと理解できました。

オプション取引とは、「買う(コール)権利や売る(プット)権利」を売買する取引を言いますが、一言で説明すると「オプションを売る人は限定的な小銭を直ぐに得られるが将来に向けて無限のリスクを負う、一方オプションを買う人は限定的な確定費用を支払うことにより将来に向けて無限の可能性を手に入れる」ということだけです。

もう少し詳細に提案された「債券」の商品設計を説明すると、「2年間、年率5%超えの利息を四半期毎に払います。ただし連動株価が基準値の105%を超えると元本保証で繰上償還します。連動株価が基準値の60%を下回るとその現物株で償還します」となります。

つまりこの債権に仕込まれている「プットオプションの売り」のプレミアムが5%超え利率の原資となっているだけなのです。

そして大変運良く買ってから2年間、連動株価が基準値の60%~105%範囲に常に収まれば、例えば1000万円分の購入で2年間で100万円を超えるご褒美がもらえます。

一方、連動株価が105%を超えるケースというのは売り手側からすると手に入れたプットオプションを行使できる可能性が低くなることを意味しますので、さっさと償還してお客にこうつぶやくことでしょう。「繰上償還となりましたがもう一度買い直しませんか? 今度こそ2年間最後までこの高利率を享受して頂きたい」。

こうして株価上昇時に繰上償還と買い直しを繰り返すと基準株価も下限値(これを「ノックイン価格」と呼びます)も上昇しますので売り手側がオプションを行使できる可能性がどんどん高まります。

そして遂にノックインしてしまい、購入金額の60%以下の価値しかない株を渡されます。

そしてまた、本債券を購入した直後から連動株価が下落するケースでは、ノックインの日まで四半期毎に1.25% (= 5%x1/4) ちょっと超えの「小銭」をもらえますが、やはり最期は購入金額の60%以下の価値しかない株を渡されます。

まさか資産運用の無料相談に乗ってくれた証券会社の紳士や笑顔の素敵なお姉さんがその蒸発した自分の資産を奪った相手だとも気がつかずに。

もちろん以上のような株価連動債系の仕組みを理解した上での投資は何も問題ありません。投資は自己責任ですから。

でも私ならこれを買う位であればFXやコモディティ関連ETFのような「溶かすレベルと増やすレベルが釣り合った商品」で健全に遊びます。

株価連動債系を酷い毒饅頭だと感じるのは「負けるときは徹底的に撃たれるけど、勝つときの利益は負わされるリスクと比較してしょぼい。また売り手が負けそうな時だけ繰上償還という逃げ道をしっかり確保済」というところなのです。

話を結論付けましょう。

選挙買収に応じる有権者は目先の数千円に目がくらんだ結果、その候補者を当選させてしまい悪政により痛い目に遭う可能性が高まります。

仕組債を買う投資家は目先の高利率に目がくらんだ結果、資産が半減してしまう可能性が高まります。

お食事だけの約束で数万円をもらってパパ活をすると、約束を破られて取り返しのつかない事態になる可能性が高まります。

目の前につるされた「小銭」に目がくらんで自分の人生を台無しにしないように心がけたいものです。

追記:

後日調べたところ、今回取り上げた仕組債の正式名称は「他社株転換可能債(EB債:Exchangeable Bond)」と言うそうです。

通常の株価連動債はノックイン償還時に大きく元本割れした額面未満の金銭での償還となり購入者のショックも大きいです。

よって株式そのもので償還し「塩漬けすればいつかは上がる」と慰める材料にしていると個人的に解釈しています。

2022年06月04日

#003 非正規社員雇用契約と定期借家契約の相似性

正社員と非正規社員の格差問題に関するニュースを耳にする度に思い出すのが、賃貸不動産の世界において普通借家契約と定期借家契約が併存している状況です。

企業の雇用問題と不動産賃貸業は一見無関係に見えますが、労働市場において非正規雇用が拡大した背景と不動産賃貸市場において定期借家契約が誕生発展した経緯は以下の通りとても似ているように感じます。

1. 先ずは、会社や大家は「強者」だが求職者やアパート等の賃借人は「弱者」であるという大前提が定義付けられる。

2. そして「弱者」は守られるべきということで、立法や判例という形で「強者」を牽制する強い規制ができあがる。

3. そのような規制により「強者」の活動(企業による正社員採用や大家による不動産賃貸)は停滞しがちとなる。

4. 経済活動の停滞は景気全体に悪影響を及ぼすので、結局守られるべき「弱者」をも傷つける結果となる。

5. 斯様な状況改善のために新しい制度が作られて、旧制度と複雑怪奇な形で併存していく。

ちなみに弱者を守るための規制として現在判例的に確立している「会社からの正社員解雇の要件」と「大家からの賃貸契約更新拒絶の正当事由」は共に偶然にも「4要件」とされています。

まず、整理解雇の4要件を目次的に並べると、①人員整理の必要性 ②解雇回避努力義務の履行 ③被解雇者選定の合理性 ④解雇手続きの妥当性、です。

また普通借家契約における更新拒絶の正当事由の4要件は、①別利用する正当性 ②従前の経緯 ③利用状況 ④財産上の給付、となっています。

それぞれの項目についての詳細な説明は割愛しますが、要は「いったん正社員化したり、家屋(や土地)を貸してしまうとリセットするのはかなり大変」ということです。

一方、雇用されている側や不動産を借りている側は、なんたって「弱者」ですから、会社を辞める時やアパートから退去するのに正当事由(という「モラル」)など一切法的に求められません。

「自分探しの旅に出る」の一言で、何のペナルティを課されることもなく会社を辞めてアパートを退去することが可能です。

いずれにせよ、弱者保護規制による経済活動停滞を打開するための「必要悪」として出てきたのが労働市場に於ける実質的な非正規雇用常態化への法整備であり、賃貸不動産市場において出てきたのが定期借家・定期借地権制度です。

どちらもビジネスライクに期間(雇用期間、賃貸期間)を含む各契約条件を交渉して合意できるのですから、「強者」側の注目度も高く、またそのスタイルを敢えて好む、またはそれに応じる以外の選択肢がない「弱者」もある程度は存在しますので一定規模に成長したのは当然の帰結です。

そして近未来を展望しても、抜本的な制度の見直しは「弱者保護」のお題目を撤回する可能性は政治的にあり得ない一方、経済を回さない訳にもいかないでしょう。

よって正社員解雇や貸主更新拒絶に必要な「4要件」が消えることもなく、一方で非正規雇用契約や定期借家契約が衰退することもないでしょう。

これからも両者は関係当時者と行政当局の「本音と建て前」のはざまの中で併存していくのです。

まさに「屋上屋を架す(おくじょうおくをかす)=”屋根の上にさらに屋根を架けるという無駄なことをするという例え”」という諺そのものです。

追記:

対峙する当事者双方が納得いくよう新しい枠組みを労働市場や不動産市場にどう作れば良いかというユートピア議論に関して私はほとんど興味がありません。

その理由は自然の進化に逆らう規制が何らかの副作用を伴うことは当然の帰結であり、その完全無欠な両立が不可能なことが自明だからです。

よって私の興味はあくまで一個人の立場から、私の顧客や私自身がこの与えられた現実の複雑怪奇化したルールをどうしっかりと読み取り、どうすれば個々の最適化戦略を取ることができるかを考えることに尽きるのです。

2022年06月15日

#004 日米クレジットカード制度の比較

私が初めて米国に駐在したのはもう四半世紀前以上となる1995年でしたが、当時の日本人の常識で考えると驚いた個人金融システムがありました。現在その一部が日本でも常識となっていることに時の流れを感じますが、そのいくつかをこのコラムを通じて今後時々紹介していこうと思います。

最初に取り上げるテーマは「日米クレジットカード制度の比較」です。

1995年当時でも、もちろん日本で発行されたクレジットカードを米国で使用することは可能でした。

しかし本邦の日本円口座にひも付きで円転後に口座引落しがされるカードは、旅行者や出張者ならともかく、米ドル建て給与を米国銀行口座に振り込まれる駐在員にとっては使い勝手が悪く、米ドルベースでのクレジットカードが必要でした。

一方、米国で新規にクレジットカードを作成するのはいわゆるCredit Historyという過去の米国内での借金とその返済履歴のない者にとっては簡単ではなく、与信限度額数百ドル程度の少額から始める必要があり、赴任直後から出張旅費や交際費の立替が多く発生する駐在員には使えないものでした。

よって多くの日系米国現地法人では駐在員にCorporate Cardという勤務先が支払保証したクレジットカードを利用させます。

これなら勤務先の信用だけで判断されますので、赴任直後から数万ドル単位の限度額が付与されたクレジットカードを利用できるのですが、プライベート含めてそれしか使用していないと本人のCredit Scoreがいつまでも改善しないので自家用車購入時に分割払いを拒絶されたりと、日常生活に支障をきたすことも出てきます。

ちなみに私は当時、米国への派遣前から日本でAMEXのゴールドカードを保有していて、その事実を基に米国でもAMEXカードを申請しましたが「アメリカでのCredit Historyがないとだめだ」と与信枠1千ドルの審査に落ちました。

最終的にチェイス銀行発行のカードの利用と返済履歴をコツコツと積み上げ5年程度かけて3万ドル超の与信枠を保有するに至りましたが、勤務先や年収といった外形的なもので信用力判断をする日本と、個人の返済実績や信用履歴等を重視する米国の違いはとても新鮮でした。

(尚、現在はJALやANAが日系米銀と提携して日本での信用を反映した米ドルベースでのクレジットカードを発行しているようですが、そのようなカードの利用履歴や返済実績がFICO等の信用調査会社にどの程度評価されているかは知りません。)

さて、次にクレジットカード利用後の返済方法ですが、これも日米で大きな違いがあります。

日本では「一括払い」「ボーナス併用払い」「リボルビング払い」等を選択して登録された銀行口座から決まった日に引き落とされるのが一般的ですが、米国では「Minimum Payment」と「Payment Due」だけが毎月通知されて、その情報に基づき、自らがその月の返済額をminimum payment以上で決定して銀行口座から振込・振替手続きを取る、乃至は個人小切手を振り出して返済していくのが一般的です。

つまり、イメージ的には米国のクレジットカードは借越機能付き仮想銀行口座のようなものであり、資金に余裕がある時には毎月のPayment Due以外にも自分で適時銀行口座から支払いCredit Balanceを調整することも可能ですし、各Payment Dueまでに各月毎の利用残高を全額返済しておけばもちろん利息を取られることもありません。

個人的には米国式の方が合理的だと思い、日本の返済の仕組みも米国型に変更されるであろうと予想していたのですが、未だにその兆候が見られません。

日本では過払い金問題等リボ払い選択時の高金利が問題になることがあります。

米国でも返済を翌月以降に繰り越した毎月のCredit Balanceにかかる金利は高く、借金の総額が減らずに高金利の支払いが毎月発生する「Credit Card Debt」はひとつの社会問題となっていますので、これが日本のクレジットカード会社が米国式返済方式を採用しない理由かもしれません。

結論として感じたのは、カード発行審査基準から返済方法まで個人ベースの自己責任主義である米国と、外形的信用力判断と自動引き落としで管理する日本とのクレジットカード業界の相違は、「まさに日米社会システムの違いの縮図」ということでした

追記:

日本でも最近デビットカードという銀行口座預金残高に応じた決済システムが利用され始めましたが、米国では1995年当時でも当たり前に存在していました。

お店でカードを出すと店員から「Credit or Debit ?」と言われ、最初は何を聞かれたのか分からなかったことを思い出します。(もうひとつ最初分からなかったのが「Paper or Plastic ?です。こちらは「紙袋かレジ袋か、どっちに入れて欲しい?」です。。)

2022年06月28日

#005 不思議な「お得」

時々とても不思議なコマーシャルを見かけることがあります。

それはいわゆる買取り業者の「その場で5千円キャッシュバック」とか「今なら買い取り価格10%増し」のような広告です。

買取りの対象が貴金属など価格自体にある程度の客観性と透明性がある商品であれば理解できなくもありません。

しかし、中古のバイク、パソコン、着物等は当然個々の状態や希少性などによる評価となるのでしょうから、常識を使い考えれば「通常の買い取り価格からキャッシュバック分を安く買い叩いているだけ」ということが想像できます。

広告を出す業者も不思議ですが、それもこのような「キャンペーン」に喜んで応じる人が存在するからなのでしょう。

買取り業者の広告のような不思議感はありませんが、令和の時代になってもまだ流れるテレビショッピングでの「メーカー希望小売価格」からの大幅値下げ的な広告にも、「勝手に決めた希望価格から値引きをされてもなあ」と感じます。

また微妙に不思議なお得感だと思うのは、大手デパートや旅行会社による「積立金友の会」のような仕組みです。

「毎月1万円積み立てると1年後に1万円のボーナスが付いて13万円のお買物券や旅行券になります」みたいな設計ですが、その買物券や旅行券を使えるのがその発行母体に限られている以上、本質的にどう得なのかはよく考えた方がよいでしょう。

もしかしたらその買物券で購入した13万円の品物と同じものが、その隣のお店では実は11万円で売っているかもしれません。

このような「不思議なお得戦術」は金融業界でもよく見かけます。

「当行指定の投資信託をご購入頂ければ同額まで年利7%の3か月特別定期預金に申し込めます」的キャンペーンにおいて買うことのできる投資信託の販売手数料はだいたい2~3%で、保有時にかかる信託報酬も1%以上はする高額なものばかりです。

一方金利7%の定期預金は3か月間だけですから、元本は税引き後で実質1.39%しか増えません。その1.39%をだしに、購入して1年保有するだけで3~4%の販売と管理に関する手数料がかかる投資信託を買わせようとするのですから恐れ入ります。

また、投資信託販売とは抱き合わせになっていない単独の高金利3か月定期も、退職金運用プラン等で時々みかけます。

さすがにこちらの金利は3か月だけとはいえ、抱き合わせ販売がない分0.5~1%程度ですが、現状の日本の金利状況からするととてもお得ですし、そこには不思議感もありません。

何故なら、金融機関にとっての預金者に支払うこのサービス金利(例えば2,000万円を3か月1%で預金する場合の税引き前金利5万円)は、それなりの規模感がある不急の現預金を持つ個人を発見するための「調査費」であり、3か月定期満期時に高額販売手数料の金融商品を売りつけるための「餌代」だからです。

つまりこの5万円はマグロの一本釣り用の餌に使うイカのようなものです。

金融機関側としてはできればその餌すら取られたくありませんので、これだけネット上の取引を啓蒙しているにもかかわらず、この手のキャンペーン商品の申し込みだけは対面を原則としており、店舗訪問時に「もっとお得なプランがありますよ」と、飲み込みかけたイカすらも口に手を入れてもぎ取り返そうとします。

どうやら「不思議そうで不思議ではないお得」を確実にゲットするには、笑顔の素敵な窓口のお姉さんやスーツをバリっと着こなした紳士に負けない強い意志と一定レベルのファイナンシャルリテラシーを持つことが必要なようです。

追記:

先日このようなキャンペーン金利定期申込時の攻防戦を実際に体験しました。

もちろん余計なものは何も買わなかったのですが、最後にご担当の方から「ご希望に沿える提案ができずに申し訳ありませんでした」と不思議なコメントを頂きましたので、「私の希望はこのキャンペーン定期だけで100%叶っております(キッパリ)」と返事をしました。

このちぐはぐなやり取りでふと思い出したのが吉本新喜劇の定番ギャグでした。
ケンカで一方的に負けている相手が去り際に「今日はこれくらいで勘弁しといたるわ」と捨て台詞を言うやつです。

2022年07月07日

#006 「不安商法」と「共感商法」

数年前に帰国した際に、日本では20年ぶりくらいにクルマを購入しました。

買い物用途程度なので5年落ちの2万キロちょっと走行した中古の国産車を80万円ほどで購入したのですが、販売店であるメーカー系列のディーラーに勧められてメインテナンスパックというものにも同時に申し込みをしました。

そのメインテナンスパックは購入後の2年間が対象で2万円強の費用が掛かるのですが、6か月毎の車両点検とオイル交換が無料というものであり、メカにそんなに強くない者にとっては「安心料」を含めての料金と納得しました。

しかし、ほどなくしてこのメインテナンスパックを勧誘してきたディーラー側の意図が2つ見えてきました。

1つめは新車への買い換えの勧誘です。

黙っていても半年に一度、お客の方から販売店を訪れてきてくれますので、点検終了までの待ち時間にカタログを広げて新型車の魅力を説明してきます。

2つめは無料のオイル以外の部品交換に関する過剰ともいえる売り込みです。

「たぶん大丈夫だと思いますが、高速道路上でのパンクの危険等を考えれば、できれば今のうちに新品に替えておいた方が良いでしょう」と、まだゴムのひげが残っているタイヤの交換すら勧められました。

その時に頭の中をよぎったのが「不安商法」という言葉です。

言うまでもなく「不安商法」とは、不安を煽ることにより高額で不要な商品を購入させる商売を指し、住宅リフォームや生命保険業界の営業手口として問題視されることがあります。

しかしながら現在の生命保険営業トップの基本戦術が不安商法ではないことを、FPとしての興味から視聴してみた某コンサル会社の「売れる保険パーソンになる」的なタイトルのZoom配信無料セミナーで知ることができました。

そのセミナーで講演した保険のトップセールスパーソン(自称)によれば、「不安商法(という直接的な言い方はしていませんでしたが、要はそういうことでした)」は、時代遅れな二流の営業手法であり、限界があるそうです。

一流の保険営業になりたければ、相手を「不安」にさせるような話をするのではなく、相手の話に納得しようがしまいが、理解できようができまいが、とにかく「共感」さえしていけば相手は心を開き、最後に必ず自分が売りたいものを買ってくれるとのことです。

そしてその「共感力」を高めるためには相手の発言を繰り返しながら相槌を打つと効果的な傾聴力になるとか、豊かな表情を磨くことがいかに大事かということを約1時間にわたり繰り返し熱弁していました。

私はこのような営業手法を「霊感商法」ならぬ「共感商法」と名付けて悦に浸っていたのですが、いずれにせよ「不安商法」しかり、「共感商法」しかり、各業界のトップセールスパーソンは極端なことを極端に見えないようにする技術に長けているがゆえにトップに君臨できているでしょう。

追記:

イソップ寓話は2500年以上前に古代ギリシャで誕生したそうです。

セミナー会社やそこで講師を務める保険営業トップ(自称)の方々が、所詮は2500年以上前の「北風と太陽」の焼き直しのような話を営業の成功者になるための秘訣として大上段に構えて講演する姿をみると、人類は進歩していないものだなあ、と改めて感じてしまいます。

2022年07月19日

#007 「水道局の方から来ました」みたいな生命保険営業

「水道局の方から来ました」とインターホン越しに言われてドアを開けてしまうと、「水道局が物理的に所在する住所と同じ方角から来たので嘘はついていない」と居直る民間業者が謎の浄水器を押し売りするという商法が社会問題になったことがありました。

先日、私自身の将来相続対策(=法定相続人x500万円が非課税枠となることの利用)のための「終身保険」を探していたところ、ある外資系生保の営業パーソンから「介護保険付き終身移行型変額保険」という商品を勧められました。

この商品は一見すると「掛け捨てではない終身型で、加入すると生涯にわたる相続対策にもなる保険」に見えてしまいますが、その正体はまったく異なります。

「水道局の方から来た」という人が「水道局職員」ではないように「終身移行型保険」は「終身保険」ではありません。

一般的な定期保険(例えば保険金額1,500万円で保険期間15年)に「特別勘定」という名称の“投資信託もどき”が同じ期間抱き合わせ販売されているだけの代物です。

そしてその「特別勘定」を自己責任で運用した結果の金額で、定期保険終了時に一時払い終身保険を新規に買うこともできますよ、というオマケが付いているだけです。

そもそも「本物の」終身保険の引き合いに対して、確信犯的に誤解を招く商品名を使った似て非なる保険を勧めること自体に悪質性を感じますが、それ以上の問題点を実際に手交された「保険設計書」を基に解説していきます。

まず、私の性別と年齢で最初の15年間(これを第1保険期間と呼ぶそうです)に振り込む保険料は、1,500万円の死亡保障で総額1,800万円弱となります。

「保険設計書」にはこの保険料総額の内訳は何も記載されていませんが、合理的に考えれば、1,500万円死亡保障見合いの定期保険料、投資信託もどきへの出資金額、保険会社が得る利益の3要素で構成されていると推定できます。

そこで先ず定期保険部分の比較対象としてネット保険で私の年齢・性別をベースに15年間1,500万円の定期保険を見積もると15年間の払込総額は300万円弱との結果が数秒で表示されました。

次に投資信託もどき(=「特別勘定」)の部分での15年間運用した結果の15年後の解約返戻金ですが、利益は上げられなかったが損もださなかったという運用益0%の場合で1,200万円弱という設計になっています。

この2つの事実を併せると、「払込総保険料1,800万円弱」マイナス「定期保険分の保険料300万円弱」マイナス「勝ち負けゼロベースでの特別勘定での運用後の15年後の返戻金1,200万円弱」=300万円強が、保険会社の取り分と試算されます。

( 別途この保険商品の「売り」としては、第1保険期間中は「要介護認定2でも保険金を支払う」とか「3大疾病時には保険料払込免除する」というトッピングが付いていることらしいですが、ここの部分にかかる純保険料はその統計学的発生確率からして余程の高齢者でもない限りそれほど高額になるとは思えません。

また、比較対象とした定期保険を販売するネット生保も当然一定の利益を確保した上での見積もりでしょうから、イメージとしてはちょうどこの2点が相殺しあっていると考えても良いでしょう。)

300万円強/1800万円弱=約17%が蒸発する保険商品の設計は衝撃的です。

次の問題点は、私の保険目的が相続税非課税枠活用のための終身1,500万円(ちなみに私の法定相続人は3人です)の死亡保障額の確保という点であったにもかかわらず、本設計では15年後に「終身移行(これを第2保険期間と言うそうです)」する時点以降に1,500万円の保険金を維持する為には、第1保険期間での特別勘定での運用結果が年平均最低3%以上であることが求められる点です。

つまり、高額な販売・管理手数料が発生する特別勘定なので3%以上の運用結果を残せない限りは本来の目的であった1,500万円の死亡保障すら15年間に渡り総額1,800万円弱をつぎ込んでも維持することができません。

頂いた保険商品のパンフレットの表紙にはきりっとした笑顔の好青年の写真の横に「豊かな未来のために、今から」と大きく書いてありましたが、そういえば「あなたの未来」とは書いてありませんでした。

この保険商品はいったい誰の豊かな未来のためなのでしょう。

追記:

「水道局の方から来ました」という人が訪ねて来た際に浄水器をちょうど探していた、みたいな超偶然が発生する可能性はゼロではありません。

しかし例えそのような場合でも、その「水道局方面の方」とその場で契約をする前に、Amazonや近所のホームセンターで同じ性能の浄水器が幾らで売っているかを確認することは基本動作です。

同様に、今回の事例にあげたような保険商品の売り込みを受けたタイミングで偶然にも定期保険への加入と投資信託の購入を考えていたとしても、いったん立ち止まり、ネット保険やネット証券から同じ効果をもたらす商品をそれぞれ単体で買うと幾らで構成できるかを調べてみましょう。

ちなみに「終身移行」の部分は、定期保険満期時にそうしたければ別途一時払い終身保険を買えばいいだけの話であり、保険会社が何か魅力的な仕組みを組成してくれている訳ではまったくありませんので無視してくれて大丈夫です。

2022年07月25日

#008 最強セールスに簡単に屈した話

もうだいぶ前の話ですが、アメリカ南部に住んでいた頃、新車の「トラック」を衝動買いしてしまった経験があります。

それは家族が日本から合流してくるスケジュールも決まり、2台目のクルマが翌月には必要となる頃でした。

とある幹線沿いのディーラーに立ち寄ってみると普通の乗用車と並んで、米国(特に南部)では一定の強い人気がある所謂ピックアップトラックが何台も展示されていました。

そこで前から疑問に思っていた質問を、私を偶然出迎えたマッチョ体形な白人セールスマンに聞いてみました。

「みんな何を運ぶためにトラックに乗ってるの?」

「いや、特になにも運ばないよ(Basically, nothing.)」

「じゃあなんで乗ってるの? 荷台のスペースが普通にむだでしょ」

するとその販売員は、「アメリカでピックアップトラックを運転することは馬に乗ることだ。そう、カウボーイなんだ。セダンやSUVに乗ることは馬車の乗客になるようなものだ。だから南部の男はトラックを愛するのだ」と熱く語り始めました。

そして「そうだ、あなただけのトラックを作ってみよう、come on !」と半ば強引に彼のブースに連れていかれ、基本パッケージから始まり、ボディカラー、アルミホイール、フロントグリル、内装色、革張り、電動シート、オーディオ等のオプションに関して私の好みを次々と聞いては、その情報をPCに入力していきました。

その間、私は何度も「Just to make sure, トラックなんて買うつもりはないからね」と念を押し、その度に彼は「わかってる、わかってる。今日、自分は暇なのでこうやって遊んでいるだけだから」と返答してきました。

それから約3週間後、その販売員から突然「Your truck has just arrived !」と電話がかかってきました。

「何だって? そんなの買ってないぞ」と私が電話越しに気色ばむと、「 I know, I know, ただね、あなたがデザインしたトラックがあまりにも美しくて、仕入れても絶対に直ぐに売れるという自信があったからそのまま発注したんだよ。でも、これはあなたがデザインしたトラックだから、誰かに買われてしまう前に先ずは見てもらおうと思って電話をしたんだ。それだけだよ ( That's about it ! )」との説明です。

そこまで言われると見てみたくなるのが人情というものです。

そのディーラーを再訪するとタイヤまでピカピカにワックスで磨かれた新車トラックが、確かに自分が指定したオプションの通りの仕様で届いていました。

そしてそのセールスマンは笑顔で「ちょっと乗ってみないか?( Why don't you ride on your horse ? ) 」と私にキーを投げ渡し、「これは運転の邪魔だな」と助手席横の窓に貼ってある値段や性能が書いてあるステッカーを剥がして私に渡しました。

その製造工場ステッカーには、なんと「This vehicle was built for especially NICK YAMADA.(特に山田氏用に組み立てた車両)」と印字されていました。

(下の1枚目の写真が今も記念にとってあるその時のステッカーです。ステッカー右上の印字の拡大版が写真下部です。)

試運転後、私はステッカープライス(=メーカー希望小売価格)からの値引き交渉すら忘れて、そのトラックを買うことを申し出ていました。

正直なところ、この「手法」が彼らが時々使う販売促進用の「仕掛け」だったのかはどうかは分かりません。

しかし、見込み客の趣味でオプションを勝手に組み合わせた車両を本当に発注することには相応のリスクがあります。

もしかしたら、ディーラーにその車両が届くまでの間に別のクルマを既に買ってしまっているかもしれません。

まあ、彼の言うことを真に受ければ、私が「作った」トラックが美しくて他の誰かが直ぐに買うので問題ないということなのかもしれませんが。。

いずれにせよ、そのセールス手法は私にとっては最強のもので強く刺さってしまいました。

買うことをまったく強要されなかったせいか、逆に急激に他の誰にも取られたくない強い気持ちに襲われたのです。

以上が高額商品を衝動買いしてしまった話ですが、私はこの「最強のセールス」体験を超えるものに、これ以降出会ったことがありません。

追記:

実際に購入した車両を自宅前で撮影した写真が2枚目です。当時のプリントを再撮影したので画像が荒いですが、雰囲気はお分かり頂けるかと思います。普通免許で運転できるのですがフルサイズ・ピックアップトラックはとにかくデカかったです。

エンジンのサイズは5.9Lもあり、公称の燃費ですら一般道で13マイル/1ガロン(=20.922キロ/3.785リットル)、すなわち1リッターあたり5.8キロという恐るべき数字(実際の運転していた際の印象はせいぜいリッター4キロ位)です。そしてガソリンタンクも26ガロン(=約100リットル弱)と大容量でとにかく燃料消費の激しいエコではない乗り物でした。

しかし、私はこの「おもちゃ」にはまってしまい、その後の約20年、途中日本との行き来はありましたが、4台ものフルサイズ・ピックアップトラックを米国で乗り継ぐことになりました。

2022年08月02日

#009 入国審査で怒る外国人とNISAかiDeCoで悩む日本人

空港のイミグレーションで、パスポートを片手に振り上げながら入国審査官に抗議をしている外国人男性を見かけたことがありました。

大声なので聞こえたのですが、訛りの強い英語で「自分は有効なパスポートと日本入国ビザを持っているのに何故すんなりと入国させない」と抗議しているようでした。

しかしながら「有効なパスポートとビザを持っている=入国が許可される」というこの外国人の認識は間違っています。

ビザを発給するのは外務省管轄の在外領事館等であり、入国可否を判断するのは法務省管轄の入国審査官です。

すなわち外務省管轄下で発給されたビザは、極論すれば単なる「入国への推薦状」に過ぎず、現場での入国許可の全権は法務省管轄の入国審査官にあります。

このような2つの官庁によるそれぞれの役割分担を彼が理解していれば、居丈高な物言いで入国審査官の印象を悪くするような振る舞いはしなかったはずです。

しかし残念なことに、有効に発給された入国ビザこそが唯一の正義のような態度を取り続けて、結局その外国人は別室に連れて行かれてしまいました。

さて、日本の書店には投資に関連する雑誌やムック本、書籍が相変わらず大量に陳列されています。

特に非課税投資枠として人気の高いNISAとiDeCoへのガイド本は何種類も見かけます。

「徹底ガイド:わたしに向いているのはNISAとiDeCoどっち?」みたいな特集名をみると、「その答えを教えるつもりならば、先ずはそれぞれの制度の管轄省庁名を書いてあげようよ」と私は心の中でつぶやいてしまいます。

2014年1月から始まったNISAの管轄は金融庁であり、そのメッセージは「貯蓄から投資へお金を移して経済を回そう」です。

よって、非課税が適用されるのはあくまで投資開始後であり随時解約が可能など使い勝手は良いですが、国債や公社債投資信託等への「退屈な投資」は制度対象外です。

一方、2016年9月にiDeCoという愛称が付けられた個人型確定拠出年金制度の管轄は厚生労働省であり、そのメッセージは「老後資金は自分でも準備しよう」です。

よって、非課税が始まるのは拠出時からと手厚い一方で、60歳未満の引出しは原則不可と厳しく、また定期預金や保険等も制度対象としますが、個別株式などの「本格投資系」はリスク集中の回避等の理由で現状取り扱われていません。

すなわち、共にアルファベットのニックネーム付きで似た仕組みのように見えますが金融庁と厚生労働省のそれぞれの制度にかける想いは異なります。

このことを押さえておけば「NISAとiDeCoのどちらを自分は先ず始めるべきか」という質問に対しての答えは自然に出てくると思うのですが、各制度のイニシエーターにも言及したガイド本を見かけたことがほぼありません。

空港の入国審査で抗議をする外国人には外務省と法務省の役割分担を、NISAかiDeCoかで悩む日本人には金融庁と厚生労働省の役割分担を、最初に是非知ってもらいたいと思います。

追記:

話がまた変わりますが、「成年後見制度」のいくつかの課題を解決する方法として、最近は「家族信託」というニックネームの民事信託制度が注目を集め始めました。

両制度の主な違いはどこにあるのでしょうか?

私としての回答は、「成年後見制度は厚生労働省が管轄する仕組みであり、家族信託は改正信託法を通じて金融庁が管轄する仕組みであることに視点を合わせれば2つの制度の本質的違いが見えてくる」ということになるのですが、この点に関してはまた別の機会に書いてみたいと思います。

2022年08月07日

#010 分譲マンションと導火線がついた爆弾の相似性

昔みたテレビのコメディ番組に、導火線に火がついた丸い爆弾を数人が大騒ぎしながら自分以外の人に次々と投げ渡し、最後に爆発してしまうという場面がありました。

その時に思ったことは「どうして他の人に投げ渡すのだろう。人がいないところに放り出してしまえば、誰も酷い目に遭わずにすんだのに」ということでした。

しかし現実の世の中にも、他の誰かにタイミングよく投げ渡さない限り、いつか自分(乃至は自分の子供等の相続人)のところで爆発してしまう可能性がある「分譲マンション」という静かな爆弾が、街中に多くあります。

分譲マンションを法律的に正しく呼ぶと「区分所有建物専有部分の区分所有権とその敷地権」となります。

鉄筋コンクリート製の建物の一部分だけの所有ですから、戸建て住宅のように所有者単独の意思で建物を取り壊すことはできませんし、固定資産税に加えて建物を維持する為の管理費と修繕積立金が毎月永遠に発生します。

そして更には自分がしっかりと支払っても、他の区分所有者がその経済的事情から分担金を滞納し始めるかもしれません。

バブル期に数千万円で販売されたいわゆるリゾートマンションが、数十万円で売りに出ても買い手が付かないことがニュースになってから久しくなりました。

端的に言えば、その維持管理費用がその所有価値・利用価値に釣りあわないと判断する売却希望者が激増した一方で、そのような物件の購入希望者が圧倒的に少数であることを物語っています。

このリゾートマンション界の現象に関しては、令和2年末で既に675万戸に上ることが示されている国土交通省発表の「分譲マンションストック戸数」と厚生労働省発表の「人口ピラミッドの変化」を併せてみることにより、今後都市部でも顕在化していく可能性が高いことが読み取れます。

 


特に「2025年問題」と言われる団塊世代全員の後期高齢者(75歳以上)入りは大相続時代の幕開けを意味しますが、その相続人となる団塊ジュニア世代も既に50歳代となり、いわゆる新規住宅需要層ではなくなっています。

要は、日本に於ける住宅需給バランスは供給過剰となっていくことが既定路線であり、よって政府もタイミングを合わせて所有者不明不動産の増加を回避するために、2024年4月からの罰則規定付きの相続登記の義務化を決定しました。

また政府は、空き家特例(正式名称:被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特例)を施行して、人口減に伴い増加する空き家の更地化を促進しようとしていますが、区分所有者の意思だけではどうにもならない分譲マンションは対象外です。

一方、マンション建替え等円滑化法(正式名称:マンションの建替えの円滑化等に関する法律)は老朽化マンションの建替え等を円滑に行うための権利調整や合意形成についての措置などを定めていますが、分譲マンション全体としての意思決定は各所有者の年齢、経済状況等も多様性を極める中、その実効性には疑問が持たれています。

やはり、導火線に火がついた爆弾を自分が保有している時に爆発させないようにする最も合理的で賢明な解決方法は、タイミングよく他の人にそっと渡してしまうことだけのようです。

追記:

相続相談時の鉄板アドバイスに、「たとえ遺産分割協議を早くまとめたいという理由等があったとしても、相続財産としての不動産を共有名義にすることは避けるべき」というものがあります。

その理由は物理的に分割することが困難な財産を共有にしてしまうと、その後の処分に関して意見が一致しない可能性が内在してしまい、世代交代により新たな共有者も出現して話し合いによる解決が不可能となるケースが増加するからです。

たった数人の兄弟や親族者間での共有でも相続の世界ではこれが正論と言われている一方で、何十何百もの他人同士が一棟の建物とその敷地を共有する分譲マンションを購入するには、「極上に棲む悦び」みたいなマンションポエムをたくさん浴びて勇気をもらうことが重要なことのようです

2022年08月22日

#011 英語に直すと視界良好にみえてくること

日本語だとその違いがよく分からないけれども、あえて英語に直してみるとその意味が理解しやすくなることが時々あります。

まずは不動産分野からです。

金融機関で住宅ローンを組むと、事務手数料と保証料という2つの名目の費用を請求されることが通常です。

そして事務手数料型のローンは「保証料無料」をうたい、保証料型のローンは「事務手数料無料」をうたっていることも多いため、名目にかかわらず合算して1円でも安い方が良いという判断もあるかもしれません。

しかし、もし将来的に期前返済をする可能性が高いのであれば、事務手数料型ではなく保証料型ローンの方をお勧めします。

その理由を考えるために「事務手数料」と「保証料」をそれぞれ英語に直してみましょう。

住宅ローンに於ける「事務手数料」は、英語では「Origination Fee」となり、「保証料」は「Guarantee Charge」となります。

この語感の違いが意味するところは、「Origination=(ローンの)組成時」という「点」であるのに対して、「Guarantee=保証している間」という「期間」であることです。

また、feeもchargeも「費用」を意味しますが、やはりfeeには「ある瞬間に対しての」というニュアンスが強く、chargeには「一定の(サービス)期間中に対しての」という意味合いが強くなります。

こう考えていくと、住宅ローンを将来的に期前返済した場合、「保証料」型であれば結果として利用しなくなったローン期間の保証料が按分計算で完済時に戻ってくるのが道理として見えてきます。

また「事務手数料」型はあくまでもローン開始時の初期費用ということで、期前返済しても1円も戻ってこなくても仕方がないということも理解しやすくなります。

住宅ローン税額控除狙い等で、敢えて借金をして居住用財産の取得を考えている方などは、保証料型を是非検討してみて下さい。

さて、次の「英語に直してみよう」は相続設計分野からです。

「相続時に争族にならないようにする為には遺言書を書いてもらうこと」と記載されているハウツー本を読み、さっそく親に話をしてみたところ、「お前は私に死ねというのか!」と大騒ぎになってしまったというエピソードをよく聞きます。

その理由は言うまでもなく「遺言書」と「遺書」という2つの言葉の混同にある訳ですが、確かに日本語ではとてもよく似ています。

しかし、この2つの言葉を英語に直してみるとまったく異なる文書であることが見えてきます。

先ずは「遺言書」ですが、これは「Will」です。言わば自分亡き後の「意思」を相続人に書面にて明確に伝えるという手段であり、語感的には日本で流行し始めたエンディングノートに近いようなイメージです。(エンディングノートには法的拘束力はありませんので、あくまで言葉の好感度が似ているということです。)

一方の「遺書」ですが、こちらは「Suicide Note」となります。「suicide=自殺」ですので、「自殺の前に書き留めたメモ」ということで、親が「お前は私に死ねというのか」と激怒する状況にぴったりな言葉です。

相続財産の多寡とは関係なく、遺言書がないがゆえに遺産分割協議がまとまらず、日本の家庭裁判所は調停請求でどこも大忙しだと聞いています。

ここは、生前にみんなが書きたくなるような「遺言書」に代わる新しいキラキラネームをつけて、そのイメージを刷新し普及に努め、調停件数を激減させることが、司法現場での働き方改革に繋がるのではと思う次第です。

追記:

「trust」という英単語があります。

これは「(心から)信頼する」という意味であり、信託銀行のことを英語では「Trust Bank」といいます。

ベスト付きのスーツをバシッと着こなした佐藤浩市さんや中井貴一さんが資産運用の相談にのってくれる銀行ですね。

そんなポジティブイメージのtrustですが、「独占禁止法」と日本語で言われている談合等を禁止する法律は、英語では「Anti-Trust Law」となります。

要は「同業者間で裏切者を出さないと誓い合って値段を吊り上げるようなこと」もtrustな行為であり、その接頭辞にanti(=「反」)を付けて、「談合はだめよ」ということになる訳です。

「trustはantiすべき」ということで、単語のイメージが急激に悪くなってしまいました。

2022年09月02日

#012 シェフの気まぐれサラダとファンドラップ

ちょっと洒落たレストランに置かれた黒板メニューの1つに「シェフの気まぐれサラダ」とか書いてあるのを見かけると、「どうして見ず知らずのシェフが気まぐれに調理したものを、お金を払ってまで食べなければいけないんだ」と偏屈者の私は思ってしまいます。

そんな私がこの度、リテール金融業界での類似商品(と、勝手に思っていた)「ファンドラップ」なるものを某信託銀行にて試しに購入してみました。500万円ちょうどですが、理由はその金額がこの銀行でのファンドラップ最低販売単位だったということだけです。

「ファンドラップ」という商品は、プロの金融機関側が素人の顧客の代わりに複数の投資商品を選択購入して運用、そしてその代償として「投資顧問報酬」を預け入れ資産から差し引くというものですが、その高コストから金融リテラシーが高いと自負している人たちは見向きもしません。

そんなファンドラップを今回敢えて購入してみた理由は以下の3点です。

(1) 手数料負けしないで脱出できる方法を見つけた。

(2) ファンドラップ商品購入経験なしに批評することを避けたかった(というのは嘘で、ブログのネタにしてみたかった)。

(3) 不透明な金融情勢の中で他人のせいにできる投資をしたかった。

まず、(1)の「手数料負けしないで脱出する方法」ですが、この手の商品は購入誘導のために、3か月高金利定期預金も同額まで申し込めることが多いようです。

今回も3か月7%の定期預金を同時に申し込むことが可能で、そこでの「回収」は約69,700円(500万円x 7.0% x 0.79685 x 3/12= 69,724円)となり、更には特別キャンペーン期間中ということで追加15,000円のキャッシュバックと、合計約84,700円をもらえます。

一方、本ファンドラップの「投資顧問報酬」は年1.54%であり、それに加えての組み込まれる各ファンド信託報酬は、説明書によると平均0.45%くらいなので区切りよく合計すると1年で約2%となります。

要は、500万円の購入では1年間で10万円の報酬・手数料となりますので、上述84,700円のファンドラップ購入のご褒美は初年度のうちに金融機関側に全額回収されてしまう見事な設計です。

しかし、今回私が選んだのは申込時から3か月毎に25%ずつ投資をしていく「エントリー分散型」というものであり、ここでは金融機関側が取る報酬もエントリーした部分見合いだけです。そして、それに加えて全体の解約申し込みも運用開始日の3か月目以降可能となります。

つまり、ファンドラップ運用開始から4~5か月目に解約すれば、84,700円の報酬に対して、金融機関側への支払いが10万円の半分5万円となるので負けないですむということであり、これが今回購入理由の一つ目です。(もちろんファンドラップ内運用商品の成績によっては解約時に5百万円を下回る可能性もありますが、それは別次元の問題でしょう。)

さて次に(2)の「ファンドラップ商品購入経験なしに批評することを避けたかった(というのは嘘で、ブログのネタにしてみたかった)」です。

まず購入にあたっては、「金融庁の要請に沿い、適合性の原則に沿うかを確認する必要がある」という大義名分のもと、個人金融資産情報をかなり詳細に聞いてきます。その深堀り具合は金融庁ではなく銀行支店長の要請でしょう。

ちなみに、「ファンドラップの購入動機」という質問もあり、正直に「ブログのネタにする為です(キッパリ)」と回答したのですが、担当のお姉さんがとても困った表情をするので模範解答を尋ねたところ、「長期的視野にたっての運用」とのことで、私の動機もそうすることにしました。

さて、詳細ヒアリングもやっと終わり、あとは金融機関側のプロのファンドマネージャーがヒアリングに基づき運用開始をしてくれるのかと思いきや、次に商品設計を細かく選択しなくてはいけませんでした。

具体的には、国内外の株式、債券、オルタナティブ商品分類のうち何を何種類混ぜるか、運用は保守的か、中庸か、積極的か等々を購入者側が決めていかなくてはいけません。

「ではさっきまでの質問攻めは何のためだったのだろう」と思いつつ、この点に関しても他顧客の典型的選択を聞いたところ「リスク度は中庸、8つの資産すべてに分散」という何とも中途半端なものが人気とのことです。

少し不満でしたが、一般的なファンドラップの実力拝見というのが今回購入のテーマですので、私の場合も同じパターンにしてもらいました。

次に運用商品購入タイミングですが、私は上述の通り、3か月毎に25%ずつ運用を開始する「エントリー分散型」を選びました。

しかし購入時に100%運用を開始するコースも含めて、世界の金融市場がどのような状況であれ、金融機関側の判断でエントリーするタイミングなどを戦術的に遅らせたりすることはなく、顧客の注文と同時に愚直に自動的に購入を開始していくだけだそうです。

このことは、購入理由(3)の「他人のせいにできる投資をしてみたかった」に関係してくるのですが、運用商品の種類もエントリータイミングも結局、購入者側がすべて選択しなくてはいけないので、実は精神的にもほとんど金融機関側のせいにはできません。

私としては、世界的な金融情勢が不透明だからこそ銀行ファンドマネージャーというプロの運用に任せてみたくて申し込んだのですが、それは叶わぬ夢のようでした。

結論です。ファンドラップはシェフの気まぐれサラダではありません。

それは、顧客が自己責任でいくつかの野菜と果物を選択すると、シェフがまとめてジューサーにかけてくれるだけの空間のようです。

そして、その特製ジュースを「ファンドラップ」と金文字で書かれた豪華なグラスに注ぎ入れて美味しそうに飾ってみせることが、1.54%もの「投資顧問報酬」を取るシェフの唯一の腕の見せ所のようです。

追記:

3か月毎に運用リポートが届くそうですので、来年1月頃に、今回私が申し込んだ「リスク度中庸、8資産分散型」の最初の運用結果、並びに運用を継続するか否かの意思決定を別途報告できるのではないかと思います。

2022年09月14日

#013 「家族信託」に群がる人たちへ

最近、家族信託なるものの宣伝をよく見聞きするようになりました。

ある広告には、白髪で上品な顔立ちの高齢者とその子供夫婦や孫のような人たちの写真の横に、「私が認知症になっても家族信託で守る」と何やら物騒なことが書いてあります。

この老人がここまで悲壮な決意で守ろうとする家族の「敵」とは誰なのでしょうか。

また、その敵からの救世主扱いされている家族信託というのは一体何者なのでしょうか。

超高齢化社会が到来した日本では、2000年に「体が弱ってきたら介護保険、頭が弱ってきたら成年後見」というイメージで、2つの制度が厚生労働省の主導で両輪として開始されました。

しかし、「体の弱り」に対する介護保険制度はその後毎年のように利用者が急増しているにも関わらず、「頭の弱り」、端的に言えば認知症対策としての成年後見制度の普及はあまり進んでいません。

成年後見制度の目的は、認知症等により判断能力が欠如した人の「身上」と「財産」を護ることです。

本人にまだ判断能力がある時に自らが合意した相手と組成する「任意後見制度」と、本人の判断能力が不十分になった後に家庭裁判所が選任する成年後見人等が担当する「法定後見制度」の2種類ありますが、酷評されがちなのは後者の法定後見制度であり、その主な理由は以下の通りです。

① 家庭裁判所選任の職業後見人が「家族の問題」に入り込んでくる。

② いったん申し立てると、その後の取り下げができない。

③ 毎月の費用が、現実的には被後見人が死亡するまで永久に発生する。

④ 実質的な資産凍結により相続対策が不可能となる。

法定後見制度の運用が開始されてからしばらくは、後見人として立候補した家族がそのまま選ばれるケースが大半でした。

しかし、家族による被後見人財産の横領事例が多発したため、その後は弁護士等の職業後見人という第三者が家庭裁判所によって選任されることが圧倒的に増えたという経緯があります。

職業後見人は、認知症となった高齢の被後見人保護の為に、その家族といえども基本的には性悪説にたった対応をせざるを得ません。

結果として、上述のような不満が家族側から噴出してしまい法定後見制度の活用が伸び悩んでいるのです。

そのような状況下、2007年施行の改正信託法により新たに「後見制度に代わる認知症対策」として脚光を浴び始めたのが、「家族信託」という耳障りの良い愛称が付けられた民事信託の制度です。

その仕組みを一言で説明すると、「高齢者がその子どもに自分の財産の管理処分権を(贈与ではなく、受益権は自分に残したまま)渡してしまう契約」となります。

これであれば、親が認知症になった後でもその子供は堂々と親の財産を管理できますし、家族の問題に第三者が入り込むこともありません。

よって、特に賃貸不動産等の収益性資産を保有する高齢者に「家族信託によって次世代に事業承継も行ない、ご隠居しましょう」と売り込むことは一定の説得力を持つことになります。

しかし、この「後見制度の弱点を家族信託で補う」という美談の裏にはとても重大な事実が一つ隠されています。

それは「仕組みの主人公」が「財産を持つ高齢者」から「高齢者が持つ財産」にガラリと入れ替わってしまうことです。

このことは後見制度の管轄省庁が厚生労働省である一方、家族信託の法的根拠となる信託法の管轄が金融庁であることからも明らかですし、そもそも家族信託には財産だけではなく本人自身を守る「身上監護」という概念は存在しません。

「家族信託ビジネス」の営業は、その扇動的な広告に釣られて近づいてきた高齢者周りの家族を無料相談会等に誘導し、上述の法定後見制度の家族側からみた不満点を過度に強調して不安に陥れるところから始まります。

そしてその家族が「家族信託屋」の指南に基づき、資産家の高齢者本人を言葉巧みに懐柔して親子間の契約に持ち込んでいくのが常套手段のようです。

冒頭に登場した「家族信託で守る」と決意を固めた白髪の高齢者は、物語の主人公が自分自身から自分の財産に移ってしまうことに気が付いているのでしょうか。

「敵」とみなした後見制度の硬直性が、実は認知症になった後の自分を最も確実に守るための仕組みだということを理解しているのでしょうか。

最後に今日も「家族信託ビジネス」獲得に群がるみなさまへ。

クレジットカード過払い金返還ビジネスの「在庫」も枯渇しつつある中、信託財産額に応じて高額な契約組成料を獲得できるこの商売はとても魅力的なのでしょうが、くれぐれも節度のある営業をお願いします。

追記

今回の話のまとめとして、資産家の高齢者本人目線で判定する「1分で結論がでる認知症対策」シートを作成したみました。ご活用して頂ければ幸いです。

2022年10月01日

#014 或る優秀なアメリカの弁護士

米国南部に住んでいた時にピックアップトラックと呼ばれる商用車を買ってしまった「最強セールスに簡単に屈した話」を書いたことがありましたが、今回はその続きの話です。

実はそのトラックに乗り始めて間もない頃に、私は飲酒運転で逮捕され警察署内の拘置所に一晩収容されました。

公共交通機関がほとんどない20余年前のアメリカ南部では、外食時にビール等を飲んでも運転して帰ることは一般的であり、信号無視などの別件で捕まらない限り、アルコール検査を受けることはありませんでした。

私が逮捕、拘留された理由は、会食後の帰りに一方通行の田舎道に反対方向から迷い込み、正面から偶然来たパトカーからの停止指示に従わず、走り去ったことにあります。

「逃げた」時間はほんの数分でしたが、応援パトカー到着後に複数の警官が拳銃を構える中で、脚を開きボンネットにうつ伏せにさせられ後ろ手に手錠を掛けられました。

そしてパトカーの後部座席に放り込まれて警察署に到着後、腕時計や財布はもちろんのこと、ベルトや靴ひもまで取り外され、アルコール検査、薬物検査の後に地下階の拘置所に収容されました。

拘置所は、薬物中毒者に見える人も含めて10名程度が収容された鉄格子に囲まれた大部屋であり、丸見えの便器が隅に1つ設置されていました。

翌朝、(といっても窓も時計もない24時間照明の場所に長くいると時間の感覚がなくなるですが、)取調官に言われたことは「このケースでは保釈金(Bail Bondといいます)の納付により公判までの保釈は可能」ということで私は勤務先への連絡を許され、Bail Bondを手配して夕方釈放されました。

(ちなみに、今日このような不祥事を起こせば、即刻帰国させられて免職を含む懲戒処分を受けるでしょう。しかし当時は大らかで、勤務先の日本人支店長からは「貴重な経験をしたな」と笑い飛ばされただけでした。)

数日して裁判所から出廷日等を記した書類が届いたのですが、驚いたのは複数の弁護士から直ぐに電話がきたことです。話を聞くと、本件は既に公告されているとのことです。

何人かの弁護士に会ってみたところ、皆、情状酌量狙い一本でしたが、ある弁護士からは次のように言われました。

「情状酌量の余地は小さく運転免許取消しはもちろんのこと、① 飲酒運転のみならず逃走し悪質ということで、高額な罰金だけでは済まず長期に渡る道路の清掃奉仕等のペナルティも受ける可能性が高い。②(免許を取り直せても)自動車保険料は天文学的数字になる。③ 就労ビザでの滞在者であれば、犯罪歴により更新は非常に困難となる。④ しかし自分に弁護を任せれば半分程度の確率で、全ての懸念を一気に解決できる秘策がある」

私は彼に弁護を依頼しました。

請負料は僅かな着手金と高額な成功報酬であり、後者は有罪となった場合の罰金と自動車保険料値上がり相当分を併せた金額の半分という分かり易い提案でした。

そろそろ結論を書きます。

私はこの弁護士先生のお陰で無罪放免となり、一切の犯罪記録を残さないことに成功しました。そのことは、この事件の約10年後の米国永住権申請時に「無犯罪証明書」を警察署に請求した際にも再確認できました。

彼の作戦は、この公判では逮捕した警官本人が原告となって出廷することが前提となっているので、その警官が出てくる限り被告人側として何らかの理由をつけて公判の日程変更を裁判官に請求することを繰り返し、原告の警官が欠席するのを待ち、公判そのものを不成立にするというものでした。

具体的には公判当日、弁護士はその警官が来ていることを確認すると初回は「未だいくつかの重要書類が揃っていない」、2度目は「今日は被告の体調が悪い」との理由でリスケに成功しました。

そして、2度延期された3度目の公判日には、相手の警官も大した事件でもないのに何度も呼び出されることに嫌気がさしたのか出廷せず、原告不在ということで「事件」そのものが流れて呆気なく終わりました。

弁護士が「半分程度の確率」と言ったのは、原告警官の気質によるということでした。相手がむきになって何度延期になっても必ず法廷に現れるようであれば、この「作戦」は3回も使うとたぶん認められなかったであろうとのことでした。

優秀な士業は時間の切り売りではなく、顧客の置かれた状況に応じて結果にコミットした提案をするものだと聞いたことがありますが、本件はその見事な実践例でした。

追記:

この直後に私は誕生日を迎えたのですが、当時のアメリカ人秘書が職場で準備した特製バースデーケーキの写真です。

彼女は私が拘置所から電話した際にも「あら、出社しないと思ったらそんなところにいたの。そこで読みたい雑誌の定期購読申込みをしたくて電話してきたの? 住所と部屋番号は?」と切り返すユーモアにあふれた方でした。

 

2022年10月26日

#015 マイナンバーが果たすべき役割

ある後期高齢者のご婦人は会社役員の夫を数年前になくした一人暮しの未亡人です。

彼女は立派な自宅と5千万円を超える金融資産を相続しました。

収入は本人の老齢基礎年金と夫の遺族厚生年金ですが、それだけでも毎月の収支は黒字であり、相続した預貯金は手がつけられることもなく銀行に眠ったままです。

遺族年金は非課税所得であるため、一人暮しの彼女は自分の老齢基礎年金だけで判定されると「住民税非課税世帯」に該当し、政府や自治体からの各種給付金等の対象となり、医療費窓口自己負担は1割で済みます。

一方、ある賃貸アパートには30歳代後半の夫婦が住んでいます。

共働き2人の世帯年収は600万円程度ですが、小学生の子供を二人抱えており、預貯金はほとんどありません。

2人とももうすぐ40歳になりますが、そうなると別名「保険料補充部隊」と呼ばれる介護保険第2号被保険者としての支払い義務も始まり、また今後は教育費関連支出も増えるので生活はますます苦しくなりそうです。

しかし、この家族はいろいろな政策的支援対象の住民税非課税世帯ではありませんし、医療費窓口自己負担はもちろん3割です。

このような不条理は日本中にあふれていますが、その理由は適正な援助が必要か否かの判定が生活保護制度のような場合を除き、住民税非課税世帯というくくりに代表されるように収入や所得だけにあるからです。

企業の財務分析では、一定期間の利益を示す損益計算書と定点観測による純資産状況を示す貸借対照表が両輪です。

個人の社会保障費負担等の判定が単年度の収入・所得関係にのみ偏っている最大の理由は、個人資産を包括的に把握するシステムがないことです。

マイナンバー制度義務化に反対する人たちの(表向きの)最大の理由は「情報漏洩リスク」「セキュリティ体制への不信感」ということらしいですが、これは技術的な論点であり、制度義務化の必要性に関しての本質的議論とは異なります。

また、国家にマイナンバーを通じて金融資産を詳細把握されることは将来的な資産課税の道筋を作ることになると懸念する意見もあります。

その可能性を完全には否定できませんが、結局は現在でも意図的に隠匿しない限り本人死亡時には個人資産の全容を明らかにして、一定額以上になると相続税が徴収されます。

全ての金融資産情報を被相続人のマイナンバー1つで収集できるようになれば、相続時の申告迅速化に大いに貢献することでしょう。

現在のところ普通貯金の場合、マイナンバー提出は任意ですが、金融機関側は預貯金情報をマイナンバーで検索可能な状態で管理するよう義務付けられているそうです。

そこには、国民に正面から要求すると抵抗感も強いので、金融機関を使い間接的に少しずつ浸透に努めている構図が見え隠れします。

しかし正論として、社会保障制度の本来の理念に沿った運営には収入(フロー)だけではなく資産(ストック)も反映されるべきであり、その手段としてマイナンバー制度を利用することに関して、社会正義の観点からもっと正々堂々と議論されるべきと考えます。

追記:

日本社会の高齢化加速により、65歳以上の介護保険料や75歳以上の後期高齢者医療制度保険料の見直し等のニュースを最近耳にしますが、やはり収入または所得だけでの線引き議論です。

どうやらこの国での現状に於ける最も理にかなったライフプラン設計は、現役時代には倹約に努めて金融資産をできるだけ増やしておき、老後はなるべく働かずにその資産の切り崩しで暮らしていくことのようです。

このことは「現役世代の消費拡大と高齢者の積極的就労が日本再生には必要」いう国の主張の真逆の行動となりますが、合理的な思考により導き出される自己防衛策としてはこれが正解でしょう。

2022年11月10日

#016 FIRE = Minimalist x FP

FIRE ( Financial Independence, Retire Early)「経済的自立を達成して早期に退職する」という概念が日本でも語られ始めてから久しくなりました。

このコンセプトが多くの人たちを惹きつけて止まない理由の1つは、完全に仕事をやめて趣味等のみに走るニュアンスがある「アーリーリタイアメント」でもなく、生活のために一定の就労が退職後も必要という意味合いを感じさせる「セミリタイアメント」とも異なるからです。

すなわちFIREの真髄は「生計維持の為にはもう働く必要はない。今後は他人や時間に拘束されない範囲で好きな仕事や投資などをするかどうか自由に決めていく」という「経済的制約から解放されたライフステージへの到達」というところにあります。

当然、最大の課題は「生きるために働く必要がない状態を作り上げる方法」ということになりますが、巷に溢れるFIREガイド本によく紹介されているのが所謂「4%ルール」です。

これは「年間生活費の25倍の金融資産を築いて年間利回り4%で運用する仕組みを作ることができれば、元本を棄損することなく永遠に暮らせる」という循環的計算です。

しかし現実には金融資産配当所得は分離課税選択で所得税と住民税の合計20%がかかりますし、不動産所得は5~45%の超過累進所得課税+住民税10%が発生します。(いずれも復興特別所得税2.1%を除く)

更にはFIRE後も別途、介護保険料を含む国民健康保険料と国民年金保険料の支払い義務は続きますので、現実的に4%ルールは、税や社会保険料支出にも耐えうるより大きな資産を築くことができるまで待つか、4%以上の高いリターンを長期安定的に実現することが必要となり遠のいてしまいます。

そこでFIRE実現を早める他の方策として考えられるのが、年間生活費そのものをより下げてしまうことと、リタイアメント後の資産元本維持にはこだわらず、少しずつ取り崩しても枯渇しない設計にしてしまうことです。

このアプローチと親和性が高いのが「ミニマリスト的性向」と「FP的インテリジェンス」の実践です。

まずは「ミニマリスト的性向」です。

こちらもFIRE同様に10年程前から多く語られるようになった生活スタイルですが、苦痛や我慢を伴う節約生活とは異なります。

ミニマリストに関しても多くの出版物が出ていますので、部屋にまったくモノを置かないような極端系ではない2~3冊の書籍を先ずは読んでみることをお勧めします。

基本概念は「モノ所有へのこだわりと訣別することによる快感」です。

次に「FP的インテリジェンス」です。

ミニマリスト的性向がFIRE実現の定性的な観点からの鍵であるならば、こちらは数字を使う定量的な鍵と言えます。

FP的インテリジェンスとはいわゆる金融リテラシーに限らず、社会保障制度、個人税制、不動産運用等への幅広い知識と理解を意味します。

そのインテリジェンスを基に作成する生涯キャッシュフロー表により「リタイアメント後の必要資金とその取り崩し具合の可視化」が可能となります。

「人生100年時代」と言いますが、日常生活に制限がない健康寿命の平均は男性の場合73歳程度(女性は75歳程度)だそうです。

高齢者となる前に経済的制約なく次のライフステージを楽しむことを実現しようとするFIREムーブメントは、今後も幅広い支持を獲得し続けることでしょう。

追記:

官公庁やそれなりの企業のトップレベルまで昇りつめ、既に十分な老後資金を築き、もう「働く」必要がないにもかかわらず、天下りや子会社幹部職への再就職を望み、交際費で平日は毎夜飲食し週末は取引先とのゴルフに興じるのが生き甲斐みたいな奇特な人々が時々います。

彼らは一見するとFIRE実践者と真逆な余生を過ごしているように見えますが、そもそも「会社が大好き」な訳ですから、FIREの定義(=「お金目的ではなく新しい生活を楽しむ」)に照らし合わせると、実は最も成功したFIRE達成者の部類に属します。

もし近くに該当するような知り合いがいれば、本人はキョトンとするでしょうが「さすがです。見事なFIREライフをご満喫されていますね」と一声かけてさしあげましょう。

2022年11月23日