#008 最強セールスに簡単に屈した話

もうだいぶ前の話ですが、アメリカ南部に住んでいた頃、新車の「トラック」を衝動買いしてしまった経験があります。

それは家族が日本から合流してくるスケジュールも決まり、2台目のクルマが翌月には必要となる頃でした。

とある幹線沿いのディーラーに立ち寄ってみると普通の乗用車と並んで、米国(特に南部)では一定の強い人気がある所謂ピックアップトラックが何台も展示されていました。

そこで前から疑問に思っていた質問を、私を偶然出迎えたマッチョ体形な白人セールスマンに聞いてみました。

「みんな何を運ぶためにトラックに乗ってるの?」

「いや、特になにも運ばないよ(Basically, nothing.)」

「じゃあなんで乗ってるの? 荷台のスペースが普通にむだでしょ」

するとその販売員は、「アメリカでピックアップトラックを運転することは馬に乗ることだ。そう、カウボーイなんだ。セダンやSUVに乗ることは馬車の乗客になるようなものだ。だから南部の男はトラックを愛するのだ」と熱く語り始めました。

そして「そうだ、あなただけのトラックを作ってみよう、come on !」と半ば強引に彼のブースに連れていかれ、基本パッケージから始まり、ボディカラー、アルミホイール、フロントグリル、内装色、革張り、電動シート、オーディオ等のオプションに関して私の好みを次々と聞いては、その情報をPCに入力していきました。

その間、私は何度も「Just to make sure, トラックなんて買うつもりはないからね」と念を押し、その度に彼は「わかってる、わかってる。今日、自分は暇なのでこうやって遊んでいるだけだから」と返答してきました。

それから約3週間後、その販売員から突然「Your truck has just arrived !」と電話がかかってきました。

「何だって? そんなの買ってないぞ」と私が電話越しに気色ばむと、「 I know, I know, ただね、あなたがデザインしたトラックがあまりにも美しくて、仕入れても絶対に直ぐに売れるという自信があったからそのまま発注したんだよ。でも、これはあなたがデザインしたトラックだから、誰かに買われてしまう前に先ずは見てもらおうと思って電話をしたんだ。それだけだよ ( That's about it ! )」との説明です。

そこまで言われると見てみたくなるのが人情というものです。

そのディーラーを再訪するとタイヤまでピカピカにワックスで磨かれた新車トラックが、確かに自分が指定したオプションの通りの仕様で届いていました。

そしてそのセールスマンは笑顔で「ちょっと乗ってみないか?( Why don't you ride on your horse ? ) 」と私にキーを投げ渡し、「これは運転の邪魔だな」と助手席横の窓に貼ってある値段や性能が書いてあるステッカーを剥がして私に渡しました。

その製造工場ステッカーには、なんと「This vehicle was built for especially NICK YAMADA.(特に山田氏用に組み立てた車両)」と印字されていました。

(下の1枚目の写真が今も記念にとってあるその時のステッカーです。ステッカー右上の印字の拡大版が写真下部です。)

試運転後、私はステッカープライス(=メーカー希望小売価格)からの値引き交渉すら忘れて、そのトラックを買うことを申し出ていました。

正直なところ、この「手法」が彼らが時々使う販売促進用の「仕掛け」だったのかはどうかは分かりません。

しかし、見込み客の趣味でオプションを勝手に組み合わせた車両を本当に発注することには相応のリスクがあります。

もしかしたら、ディーラーにその車両が届くまでの間に別のクルマを既に買ってしまっているかもしれません。

まあ、彼の言うことを真に受ければ、私が「作った」トラックが美しくて他の誰かが直ぐに買うので問題ないということなのかもしれませんが。。

いずれにせよ、そのセールス手法は私にとっては最強のもので強く刺さってしまいました。

買うことをまったく強要されなかったせいか、逆に急激に他の誰にも取られたくない強い気持ちに襲われたのです。

以上が高額商品を衝動買いしてしまった話ですが、私はこの「最強のセールス」体験を超えるものに、これ以降出会ったことがありません。

追記:

実際に購入した車両を自宅前で撮影した写真が2枚目です。当時のプリントを再撮影したので画像が荒いですが、雰囲気はお分かり頂けるかと思います。普通免許で運転できるのですがフルサイズ・ピックアップトラックはとにかくデカかったです。

エンジンのサイズは5.9Lもあり、公称の燃費ですら一般道で13マイル/1ガロン(=20.922キロ/3.785リットル)、すなわち1リッターあたり5.8キロという恐るべき数字(実際の運転していた際の印象はせいぜいリッター4キロ位)です。そしてガソリンタンクも26ガロン(=約100リットル弱)と大容量でとにかく燃料消費の激しいエコではない乗り物でした。

しかし、私はこの「おもちゃ」にはまってしまい、その後の約20年、途中日本との行き来はありましたが、4台ものフルサイズ・ピックアップトラックを米国で乗り継ぐことになりました。

2022年08月02日