#012 シェフの気まぐれサラダとファンドラップ


ちょっと洒落たレストランに置かれた黒板メニューの1つに「シェフの気まぐれサラダ」とか書いてあるのを見かけると、「どうして見ず知らずのシェフが気まぐれに調理したものを、お金を払ってまで食べなければいけないんだ」と偏屈者の私は思ってしまいます。

そんな私がこの度、リテール金融業界での類似商品(と、勝手に思っていた)「ファンドラップ」なるものを某信託銀行にて試しに購入してみました。500万円ちょうどですが、理由はその金額がこの銀行でのファンドラップ最低販売単位だったということだけです。

「ファンドラップ」という商品は、プロの金融機関側が素人の顧客の代わりに複数の投資商品を選択購入して運用、そしてその代償として「投資顧問報酬」を預け入れ資産から差し引くというものですが、その高コストから金融リテラシーが高いと自負している人たちは見向きもしません。

そんなファンドラップを今回敢えて購入してみた理由は以下の3点です。

(1) 手数料負けしないで脱出できる方法を見つけた。

(2) ファンドラップ商品購入経験なしに批評することを避けたかった(というのは嘘で、ブログのネタにしてみたかった)。

(3) 不透明な金融情勢の中で他人のせいにできる投資をしたかった。

まず、(1)の「手数料負けしないで脱出する方法」ですが、この手の商品は購入誘導のために、3か月高金利定期預金も同額まで申し込めることが多いようです。

今回も3か月7%の定期預金を同時に申し込むことが可能で、そこでの「回収」は約69,700円(500万円x 7.0% x 0.79685 x 3/12= 69,724円)となり、更には特別キャンペーン期間中ということで追加15,000円のキャッシュバックと、合計約84,700円をもらえます。

一方、本ファンドラップの「投資顧問報酬」は年1.54%であり、それに加えての組み込まれる各ファンド信託報酬は、説明書によると平均0.45%くらいなので区切りよく合計すると1年で約2%となります。

要は、500万円の購入では1年間で10万円の報酬・手数料となりますので、上述84,700円のファンドラップ購入のご褒美は初年度のうちに金融機関側に全額回収されてしまう見事な設計です。

しかし、今回私が選んだのは申込時から3か月毎に25%ずつ投資をしていく「エントリー分散型」というものであり、ここでは金融機関側が取る報酬もエントリーした部分見合いだけです。そして、それに加えて全体の解約申し込みも運用開始日の3か月目以降可能となります。

つまり、ファンドラップ運用開始から4~5か月目に解約すれば、84,700円の報酬に対して、金融機関側への支払いが10万円の半分5万円となるので負けないですむということであり、これが今回購入理由の一つ目です。(もちろんファンドラップ内運用商品の成績によっては解約時に5百万円を下回る可能性もありますが、それは別次元の問題でしょう。)

さて次に(2)の「ファンドラップ商品購入経験なしに批評することを避けたかった(というのは嘘で、ブログのネタにしてみたかった)」です。

まず購入にあたっては、「金融庁の要請に沿い、適合性の原則に沿うかを確認する必要がある」という大義名分のもと、個人金融資産情報をかなり詳細に聞いてきます。その深堀り具合は金融庁ではなく銀行支店長の要請でしょう。

ちなみに、「ファンドラップの購入動機」という質問もあり、正直に「ブログのネタにする為です(キッパリ)」と回答したのですが、担当のお姉さんがとても困った表情をするので模範解答を尋ねたところ、「長期的視野にたっての運用」とのことで、私の動機もそうすることにしました。

さて、詳細ヒアリングもやっと終わり、あとは金融機関側のプロのファンドマネージャーがヒアリングに基づき運用開始をしてくれるのかと思いきや、次に商品設計を細かく選択しなくてはいけませんでした。

具体的には、国内外の株式、債券、オルタナティブ商品分類のうち何を何種類混ぜるか、運用は保守的か、中庸か、積極的か等々を購入者側が決めていかなくてはいけません。

「ではさっきまでの質問攻めは何のためだったのだろう」と思いつつ、この点に関しても他顧客の典型的選択を聞いたところ「リスク度は中庸、8つの資産すべてに分散」という何とも中途半端なものが人気とのことです。

少し不満でしたが、一般的なファンドラップの実力拝見というのが今回購入のテーマですので、私の場合も同じパターンにしてもらいました。

次に運用商品購入タイミングですが、私は上述の通り、3か月毎に25%ずつ運用を開始する「エントリー分散型」を選びました。

しかし購入時に100%運用を開始するコースも含めて、世界の金融市場がどのような状況であれ、金融機関側の判断でエントリーするタイミングなどを戦術的に遅らせたりすることはなく、顧客の注文と同時に愚直に自動的に購入を開始していくだけだそうです。

このことは、購入理由(3)の「他人のせいにできる投資をしてみたかった」に関係してくるのですが、運用商品の種類もエントリータイミングも結局、購入者側がすべて選択しなくてはいけないので、実は精神的にもほとんど金融機関側のせいにはできません。

私としては、世界的な金融情勢が不透明だからこそ銀行ファンドマネージャーというプロの運用に任せてみたくて申し込んだのですが、それは叶わぬ夢のようでした。

結論です。ファンドラップはシェフの気まぐれサラダではありません。

それは、顧客が自己責任でいくつかの野菜と果物を選択すると、シェフがまとめてジューサーにかけてくれるだけの空間のようです。

そして、その特製ジュースを「ファンドラップ」と金文字で書かれた豪華なグラスに注ぎ入れて美味しそうに飾ってみせることが、1.54%もの「投資顧問報酬」を取るシェフの唯一の腕の見せ所のようです。

追記:

3か月毎に運用リポートが届くそうですので、来年1月頃に、今回私が申し込んだ「リスク度中庸、8資産分散型」の最初の運用結果、並びに運用を継続するか否かの意思決定を別途報告できるのではないかと思います。

2022年09月14日