#009 入国審査で怒る外国人とNISAかiDeCoで悩む日本人


空港のイミグレーションで、パスポートを片手に振り上げながら入国審査官に抗議をしている外国人男性を見かけたことがありました。

大声なので聞こえたのですが、訛りの強い英語で「自分は有効なパスポートと日本入国ビザを持っているのに何故すんなりと入国させない」と抗議しているようでした。

しかしながら「有効なパスポートとビザを持っている=入国が許可される」というこの外国人の認識は間違っています。

ビザを発給するのは外務省管轄の在外領事館等であり、入国可否を判断するのは法務省管轄の入国審査官です。

すなわち外務省管轄下で発給されたビザは、極論すれば単なる「入国への推薦状」に過ぎず、現場での入国許可の全権は法務省管轄の入国審査官にあります。

このような2つの官庁によるそれぞれの役割分担を彼が理解していれば、居丈高な物言いで入国審査官の印象を悪くするような振る舞いはしなかったはずです。

しかし残念なことに、有効に発給された入国ビザこそが唯一の正義のような態度を取り続けて、結局その外国人は別室に連れて行かれてしまいました。

さて、日本の書店には投資に関連する雑誌やムック本、書籍が相変わらず大量に陳列されています。

特に非課税投資枠として人気の高いNISAとiDeCoへのガイド本は何種類も見かけます。

「徹底ガイド:わたしに向いているのはNISAとiDeCoどっち?」みたいな特集名をみると、「その答えを教えるつもりならば、先ずはそれぞれの制度の管轄省庁名を書いてあげようよ」と私は心の中でつぶやいてしまいます。

2014年1月から始まったNISAの管轄は金融庁であり、そのメッセージは「貯蓄から投資へお金を移して経済を回そう」です。

よって、非課税が適用されるのはあくまで投資開始後であり随時解約が可能など使い勝手は良いですが、国債や公社債投資信託等への「退屈な投資」は制度対象外です。

一方、2016年9月にiDeCoという愛称が付けられた個人型確定拠出年金制度の管轄は厚生労働省であり、そのメッセージは「老後資金は自分でも準備しよう」です。

よって、非課税が始まるのは拠出時からと手厚い一方で、60歳未満の引出しは原則不可と厳しく、また定期預金や保険等も制度対象としますが、個別株式などの「本格投資系」はリスク集中の回避等の理由で現状取り扱われていません。

すなわち、共にアルファベットのニックネーム付きで似た仕組みのように見えますが金融庁と厚生労働省のそれぞれの制度にかける想いは異なります。

このことを押さえておけば「NISAとiDeCoのどちらを自分は先ず始めるべきか」という質問に対しての答えは自然に出てくると思うのですが、各制度のイニシエーターにも言及したガイド本を見かけたことがほぼありません。

空港の入国審査で抗議をする外国人には外務省と法務省の役割分担を、NISAかiDeCoかで悩む日本人には金融庁と厚生労働省の役割分担を、最初に是非知ってもらいたいと思います。

追記:

話がまた変わりますが、「成年後見制度」のいくつかの課題を解決する方法として、最近は「家族信託」というニックネームの民事信託制度が注目を集め始めました。

両制度の主な違いはどこにあるのでしょうか?

私としての回答は、「成年後見制度は厚生労働省が管轄する仕組みであり、家族信託は改正信託法を通じて金融庁が管轄する仕組みであることに視点を合わせれば2つの制度の本質的違いが見えてくる」ということになるのですが、この点に関してはまた別の機会に書いてみたいと思います。

2022年08月07日