#020 細分化される都市部近郊の土地を見て想うこと


相続が発生したのでしょうか。

都心への交通の便が 「それなりに」 良い沿線の古屋が解体されてしばらくすると、和製英語でパワービルダーと呼ばれる戸建て住宅販売業者による新築工事が始まる風景を見かけることがあります。

しかし200㎡はあろうかと思われるその土地に、新たな庭付き一戸建てが建築されることはほとんどありません。

これは仮にその土地の価額が30万円/㎡だとすると、200㎡で6千万円の評価ということになり、相応の建物を新築して利益をのせると1億円程度になってしまうからです。

今や首都圏在住で1億円の予算を持つ住宅購入希望者の主流は「多少面積を妥協しても都心そのものでの戸建てやマンション」狙いであり、「都心への交通の便がそれなりに良い沿線での200㎡の戸建て」ではありません。

よって郊外の土地は分筆(=土地を分けること)されて100㎡ほどの2つの住宅となり、また場合によっては70㎡弱に3分筆されて一棟5,000万円程度で複数の建売住宅として販売されていきます。

この販売価格帯であればより幅広い購買層が相手となり、戸数は増えても業者として早く確実に売却することが可能になるからです。

「分筆販売戦略」をスムーズに進めるには土地の形状が重要です。

具体的には、その土地が下図(A)のようにきれいな長方形で且つ長い方の辺が道路に面しているのが理想的です。

正面道路に向かい土地を二等分して床面積100㎡程度の2階建て家屋を2棟建築することができるからです。

さらにその土地が建蔽率や容積率制限の緩い用途地域であれば、下図(B)のように3等分して、1階にはビルトイン式の駐車場と納戸、2階にLDK、3階に2~3の居室という、いわゆる「ペンシルハウス」を3棟建築し販売していく作戦も、上述の通り採用されています。

問題となるのはせっかくの長方形の土地であっても、道路に接面している部分の辺が短く奥行きが広い場合です。

この場合、道路に面して2等分すると極細のいびつな長方形となってしまいますし、道路側と奥側で分筆してしまうと奥側の土地は接道(=幅員4m以上の道路に2m以上接する)義務を果たせません。

よって苦渋の選択として行われるのが下図(C)のような分筆であり、右側の土地はその形状から「旗竿地(はたざおち)」と呼ばれています。

旗竿地の問題点は、路地上部分に土地面積を取られるので有効宅地部分が限定されてしまうこと、一般に日当たりや風通しが悪い場合が多いこと、火災発生時の消火困難性などですが、更には将来に建物の取り壊し再建築をする際の費用が高額になることが挙げられます。

その理由は、2棟まとめての住宅建築時には奥側家屋の構造部分を完成させてから道路側家屋を建てることが可能なのに対して、完成後は奥の土地に重機が入ることが出来ないため、古屋解体などが手作業になるためです。



「分筆分譲ブーム」は戸建住宅への一定の根強い人気もあり、もうしばらくは続きそうです。

江戸時代には「分地制限令」といい、農民の年貢負担能力を維持する為に田畑の分割を禁止する法律がありました。

現代でも、街の景観を守るために「建築協定」という一定の行政手続きにより関係者が自主的に「最低敷地面積」に制限を加えている街区も存在しています。

しかし「美しい街並み」の代償は「市場流動性の低下」です。

パワービルダーによる分筆分譲作戦も、分筆による需要の掘り起しという経済合理性に基づいた行為であり、それに背く制限は何らかの副作用を生み出します。

建築協定が「限界ニュータウン問題」の一因にもなっている場合があるとも聞いたことがあります。

「不動産2025年問題(=2025年になると団塊の世代が全員後期高齢者となり大相続時代が始まる一方、相続人となる団塊ジュニア世代も50歳以上となり新規住宅取得層ではなくなる問題)」はマンションだけでなく戸建て住宅にも当然影響します。

住宅用地の需給バランス緩和が少子高齢化の更なる進展により進むと「見えざる手」による作用で、分筆された土地への合筆(=複数の土地を1つにまとめること)ブームが訪れるのでしょうか?

追記:

上図(C)のような旗竿地における合筆では、不動産用語でいうところの「限定価格」を巡る攻防戦が予想されます。

限定価格を不動産鑑定基準の定義から意訳すれば「不動産の併合または分割等により、通常の市場価格から乖離して限定的に生じる価格」となります。

旗竿地の合筆では、路地上部分が有効宅地に変化することにより土地の価値が相応に増加することを意味します。

旗竿地を売る方と買う方のどちらがその価値上昇の受益者となるのかは、双方の不動産価値へのインテリジェンスと交渉能力で決まることでしょう。

特に売買の片方だけがプロの業者である場合には、他方の一般人が貧乏くじを引かされないように気をつける必要があります。

2023年01月25日