#015 マイナンバーが果たすべき役割


ある後期高齢者のご婦人は会社役員の夫を数年前になくした一人暮しの未亡人です。

彼女は立派な自宅と5千万円を超える金融資産を相続しました。

収入は本人の老齢基礎年金と夫の遺族厚生年金ですが、それだけでも毎月の収支は黒字であり、相続した預貯金は手がつけられることもなく銀行に眠ったままです。

遺族年金は非課税所得であるため、一人暮しの彼女は自分の老齢基礎年金だけで判定されると「住民税非課税世帯」に該当し、政府や自治体からの各種給付金等の対象となり、医療費窓口自己負担は1割で済みます。

一方、ある賃貸アパートには30歳代後半の夫婦が住んでいます。

共働き2人の世帯年収は600万円程度ですが、小学生の子供を二人抱えており、預貯金はほとんどありません。

2人とももうすぐ40歳になりますが、そうなると別名「保険料補充部隊」と呼ばれる介護保険第2号被保険者としての支払い義務も始まり、また今後は教育費関連支出も増えるので生活はますます苦しくなりそうです。

しかし、この家族はいろいろな政策的支援対象の住民税非課税世帯ではありませんし、医療費窓口自己負担はもちろん3割です。

このような不条理は日本中にあふれていますが、その理由は適正な援助が必要か否かの判定が生活保護制度のような場合を除き、所有資産規模は一切問われず、住民税非課税世帯というくくりに代表されるように収入や所得だけにあるからです。

企業の財務分析では、一定期間の利益を示す損益計算書と定点観測による純資産状況を示す貸借対照表が両輪です。

個人の社会保障費負担等の判定が単年度の収入・所得関係にのみ偏っている最大の理由は、個人資産を包括的に把握するシステムがないことです。

マイナンバー制度義務化に反対する人たちの(表向きの)最大の理由は「情報漏洩リスク」「セキュリティ体制への不信感」ということらしいですが、これは技術的な論点であり、制度義務化の必要性に関しての本質的議論とは異なります。

また、国家にマイナンバーを通じて金融資産を詳細把握されることは将来的な資産課税の道筋を作ることになると懸念する意見もあります。

その可能性を完全には否定できませんが、結局は現在でも意図的に隠匿しない限り本人死亡時には個人資産の全容を明らかにして、一定額以上になると相続税が徴収されます。

全ての金融資産情報を被相続人のマイナンバー1つで収集できるようになれば、相続時の申告迅速化に大いに貢献することでしょう。

現在のところ普通預金の場合、マイナンバー提出は任意ですが、金融機関側は預貯金情報をマイナンバーで検索可能な状態で管理するよう義務付けられているそうです。

そこには、国民に正面から要求すると抵抗感も強いので、金融機関を使い間接的に少しずつ浸透に努めている構図が見え隠れします。

しかし正論として、社会保障制度の本来の理念に沿った運営には収入(フロー)だけではなく資産(ストック)も反映されるべきであり、その手段としてマイナンバー制度を利用することに関して、社会正義の観点からもっと正々堂々と議論されるべきと考えます。

追記:

日本社会の高齢化加速により、65歳以上の介護保険料や75歳以上の後期高齢者医療制度保険料の見直し等のニュースを最近耳にしますが、やはり収入または所得だけでの線引き議論です。

どうやらこの国での現状に於ける最も理にかなったライフプラン設計は、現役時代には倹約に努めて金融資産をできるだけ増やしておき、老後はなるべく働かずにその資産の切り崩しで暮らしていくことのようです。

このことは「現役世代の消費拡大と高齢者の積極的就労が日本再生には必要」いう国の主張の真逆の行動となりますが、合理的な思考により導き出される自己防衛策としてはこれが正解でしょう。

2022年11月10日