#002 選挙で買収される有権者と仕組債を購入する投資家

最近はあまり聞きませんが、以前は時々有権者が数千円の「小銭」をもらって特定の選挙立候補者事務所に買収されるという事件がありました。

もちろんこれは完全な違法行為ですが、物事の本質としては「目先の小銭に釣られて自分が持っている自由とか権利というものを安売りしてしまうと、後でとんでもないしっぺ返しを喰らわせられる可能性が高いぞ」ということを意味しています。

先日、ある証券会社から年利5%以上の「債券」の購入を提案されました。その商品の高利率の魅力と相対的安全性を熱く説明頂きましたが、端的に言うとそれは「プットオプションの売り」が仕組まれた株価連動債系というものだと理解できました。

オプション取引とは、「買う(コール)権利や売る(プット)権利」を売買する取引を言いますが、一言で説明すると「オプションを売る人は限定的な小銭を直ぐに得られるが将来に向けて無限のリスクを負う、一方オプションを買う人は限定的な確定費用を支払うことにより将来に向けて無限の可能性を手に入れる」ということだけです。

もう少し詳細に提案された「債券」の商品設計を説明すると、「2年間、年率5%超えの利息を四半期毎に払います。ただし連動株価が基準値の105%を超えると元本保証で繰上償還します。連動株価が基準値の60%を下回るとその現物株で償還します」となります。

つまりこの債権に仕込まれている「プットオプションの売り」のプレミアムが5%超え利率の原資となっているだけなのです。

そして大変運良く買ってから2年間、連動株価が基準値の60%~105%範囲に常に収まれば、例えば1000万円分の購入で2年間で100万円を超えるご褒美がもらえます。

一方、連動株価が105%を超えるケースというのは売り手側からすると手に入れたプットオプションを行使できる可能性が低くなることを意味しますので、さっさと償還してお客にこうつぶやくことでしょう。「繰上償還となりましたがもう一度買い直しませんか? 今度こそ2年間最後までこの高利率を享受して頂きたい」。

こうして株価上昇時に繰上償還と買い直しを繰り返すと基準株価も下限値(これを「ノックイン価格」と呼びます)も上昇しますので売り手側がオプションを行使できる可能性がどんどん高まります。

そして遂にノックインしてしまい、購入金額の60%以下の価値しかない株を渡されます。

そしてまた、本債券を購入した直後から連動株価が下落するケースでは、ノックインの日まで四半期毎に1.25% (= 5%x1/4) ちょっと超えの「小銭」をもらえますが、やはり最期は購入金額の60%以下の価値しかない株を渡されます。

まさか資産運用の無料相談に乗ってくれた証券会社の紳士や笑顔の素敵なお姉さんがその蒸発した自分の資産を奪った相手だとも気がつかずに。

もちろん以上のような株価連動債系の仕組みを理解した上での投資は何も問題ありません。投資は自己責任ですから。

でも私ならこれを買う位であればFXやコモディティ関連ETFのような「溶かすレベルと増やすレベルが釣り合った商品」で健全に遊びます。

株価連動債系を酷い毒饅頭だと感じるのは「負けるときは徹底的に撃たれるけど、勝つときの利益は負わされるリスクと比較してしょぼい。また売り手が負けそうな時だけ繰上償還という逃げ道をしっかり確保済」というところなのです。

話を結論付けましょう。

選挙買収に応じる有権者は目先の数千円に目がくらんだ結果、その候補者を当選させてしまい悪政により痛い目に遭う可能性が高まります。

仕組債を買う投資家は目先の高利率に目がくらんだ結果、資産が半減してしまう可能性が高まります。

お食事だけの約束で数万円をもらってパパ活をすると、約束を破られて取り返しのつかない事態になる可能性が高まります。

目の前につるされた「小銭」に目がくらんで自分の人生を台無しにしないように心がけたいものです。

追記:

後日調べたところ、今回取り上げた仕組債の正式名称は「他社株転換可能債(EB債:Exchangeable Bond)」と言うそうです。

通常の株価連動債はノックイン償還時に大きく元本割れした額面未満の金銭での償還となり購入者のショックも大きいです。

よって株式そのもので償還し「塩漬けすればいつかは上がる」と慰める材料にしていると個人的に解釈しています。

2022年06月04日