コラム

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*本コラムは当事務所代表個人の感想を示しているものであり、掲載されている情報・見解等を利用することに起因する損害について一切責任を負いません。

#034 2023年9月23日
「これはお幾ら万円ですか?」というやっかいな問題

#033 2023年8月31日
海外不動産投資と相続

#032 2023年8月10日
簿記の素敵さについて個人事業主の素人が少しだけ語る

#031 2023年7月17日
話すレベルで書くことへの違和感(アウトプットを考える)

#030 2023年7月2日
雇用保険の公共職業訓練所での日々

#029 2023年6月7日
悲報:米国永住権を放棄した件

#028 2023年5月21日
私が愛した「ひよこ食い商法」

#027 2023年5月5日
新NISA制度はノアの箱舟への乗船券なのか

#026 2023年4月19日
「家なき子特例」細則ににじみ出る国税庁の怒りと哀しみ

#025 2023年4月7日
個人事業主のスマホ最適プラン実践例

#024 2023年3月21日
今オプションを売ろうとするあなたへ

#023 2023年3月12日
FPが使いたい自然な英語

#022 2023年2月24日
コロナ禍後の米国で感じたクレカ利用時の変化

#021 2023年2月8日
その後の大手信託銀行ファンドラップ体験記

#020 2023年1月25日
細分化される都市部近郊の土地を見て想うこと

#019 2023年1月12日
資格試験合格への正攻法

#018 2022年12月24日
「譲渡所得」という迷宮にようこそ

#017 2022年12月14日
お金にまつわるアメリカの話で日本でも定着しそうなこと

#016 2022年11月23日
FIRE=Minimalist x FP

#015 2022年11月10日
マイナンバーが果たすべき役割

#014 2022年10月26日
或る優秀なアメリカの弁護士

#013 2022年10月1日
「家族信託」に群がる人たちへ

#012 2022年9月14日
シェフの気まぐれサラダとファンドラップ

#011 2022年9月2日
英語に直すと視界良好に見えてくること

#010 2022年8月22日
分譲マンションは導火線に火がついた爆弾か

#009 2022年8月7日
入国審査で怒る外国人とNISAかiDeCoで悩む日本人

#008 2022年8月2日
最強セールスに簡単に屈した話

#007 2022年7月25日
「水道局の方から来ました」みたいな生命保険営業

#006 2022年7月19日
「不安商法」と「共感商法」

#005 2022年7月7日
不思議な「お得」

#004 2022年6月28日
日米クレジットカード制度の比較

#003 2022年6月15日
非正規社員雇用契約と定期借家契約の相似性

#002 2022年6月4日
選挙で買収される有権者と仕組債を購入する投資家

#001 2022年5月20日
任意継続被保険者制度のルールと禁煙ホテルの張り紙

コラム一覧

#034 「これはお幾ら万円ですか?」というやっかいな問題


視聴者が持参する古美術品や昔の玩具などの「お宝」を専門家や鑑定家と称する人たちが値付けするテレビ番組が安定した人気を集めている(いた?)そうです。

人気の秘密は、高額だと信じていたものに安値がつけられたり、意外なものが高額な評価になることらしいのですが、安値評価で残念がる場合はさておき、高額な値付けに喜ぶ感覚を今一つ理解することができません。

何故ならば、そこに真剣なオークション性はなく、提示価格にそれなりのウンチクはあろうとも、しょせんは「無責任な値付け」にすぎないからです。

誤解なきように補足すると「無責任」というのは、何も考えずに付けたという意味ではありません。「この価格なら私が買い取ります」という評価への履行責任性がないという意味です。

とは言っても、実際の世の中にも「売るつもり、買うつもりはないが正当な価値を知る必要がある」という状況、または「売るつもり、買うつもりもあるが、まずはその価値におおよその見当をつけたい」という状況が発生することも事実です。

そのような状況は、取引相場のない株式と不動産関連でも見受けられます。

たとえば非上場株式や不動産の持ち主に相続が発生した場合には、その相続した財産を売却する意図が相続人になくても、相続税額計算のために価額評価の必要性が出てきます。

また、非上場株式を売買するM&Aなどの場合には、上場株式取引のような透明性と流動性の高い市場価格が存在しませんので、何らかの方法で適正価額を模索したいという需要が出てきますし、不動産取引にても同様です。

非上場株式においても不動産においても、いわば「唯一無二」の対象物の経済的価値を算定するには次の3要素の組み合わせが王道とされています。

① 資産性 ( Cost Approach )

非上場株式であれば、その会社の純資産価額ないしは解散価値、不動産であれば、再調達原価、積算価格と呼ばれるもので、「静」の状態での換金価値です。

② 収益性 ( Income Approach )

非上場株式でも不動産においても、その対象物の将来に向けての稼ぐ力、すなわち収益力への評価です。つまり「動」への期待値を直接還元法やDCF法で求めるもので収益価格と呼ばれます。なお、経営権に影響がない範囲での親族以外の第三者への株式譲渡であれば配当還元価額などを使用します。

③ 市場性 ( Market Approach )

非上場株式の相続財産評価方法でいう類似業種比準方式、不動産鑑定での取引事例比較法で導き出される比準価格が相当します。似たような会社または不動産がいくらで最近売買されたかを確認した上で適当な修正を加えて算出する、いわば「仮想市況価格」です。

以上の3要素を専門家と称する人々が一定の基準により、こねくり回して出てくるのが「適正な価額」ということになっています。

もちろん実際のビジネス現場では、売手と買手がそれぞれの思惑に基づいて「外野は黙ってろ」と、自由に売買価格を合意することが可能です。

しかし税務当局は「外野」ではありませんので黙ってはいません。

贈与税や相続税課税のために、純資産価額を判定の中心に据えた独自の評価をします。

また、簿記会計には「のれん」というユニークな概念が存在します。

これはM&A 等にて実際に買収した価格が、時価評価純資産価額と比較して高額である場合、その上振れ差額を無形固定資産として計上するものです。

実はそのプレミアムはただの過剰評価なのかもしれません。

後日やはり高値掴みであった事が「減損テスト」等を通じて判明すれば、その金額は損失計上されます。

反対に純資産価額よりも安く買えた場合は「逆のれん(負ののれん)」と言い、安く買えた部分を特別利益として一括計上します。

しかしこちらも後日、買収時査定が甘くポンコツを掴まされたと判明すれば、その分を減損処理にて損失計上することになります。(本例を以前実際に近くで見かけて苦笑した経験があります。)

以上のように俯瞰(ふかん)していくと「これはお幾ら万円ですか」の基軸が時価での純資産価額を中心に機能していることが分かります。

追記:

2024年1月以降、本格的な「タワマン節税防止策」が導入される情勢です。

現状の不動産相続税評価額は、建物にかかる固定資産税と路線価を基にした土地価格を足して算定しています。

しかしタワマンでは一戸あたりの土地持分割合が極小化(これを通称「タワマン所有土地面積たたみ一畳」と言います)されて、高価な高層階ほど市場価格と評価額との開きが大きくなりました。

今後ははその差額を「乖離率」と「補正値」を使い市場価格の最低6割になるように修正する意向だという話です。

「資産性」の本質が「収益性」や「市場性」とも不可分な関係にあることの好例です。

2023年09月23日

#033 海外不動産投資と相続


自己利用の別荘として、または賃貸用物件として、海外不動産投資へと誘う広告や記事を見かけることがあります。

そこには素敵な写真やイラストとともに、その国の成長性、投資対象物件の収益性、現地の良好な治安状況等々が、いわゆるマンションポエム的な見出しと共に書かれています。

仮に英語(乃至は現地語)ができなくても、契約から物件引き渡しまで業者によるサポートがあるそうですが、それでも海外での不動産現物投資には「相応の覚悟」が必要です。

それは、業者サポートの有無にかかわらず、所在国での登記、保険付保、メインテナンス、税務処理等に関して物件引渡し後に何か問題が発生すれば、それは所有者の自己責任となるからです。

更には購入者が存命中にその物件を売却しない限り、将来的にはその海外不動産にも相続が、いずれ発生します。

その際の現地での相続税や名義変更等の手続きに関するプロセスや費用まで事前に確認し準備をしておかないと、将来「海外”負”動産」として、相続人となる配偶者や子どもにまで恨まれる結果にもなりかねません。

一例として日米の相続制度の違いを基に見ていきます。

日本では相続発生後に相続人が相続財産を包括的に承継して、そこから被相続人の債務弁済や相続税の支払いをするのが基本形です。

一方米国では、相続発生後に被相続人の財産はいったん裁判所の管理下に置かれます。

そして裁判所任命の遺産管理者(Personal Representative)により、遺言書の確認、相続財産と相続人の確定、債権者への公告、負債の支払い、遺産税の申告と納付と、一連の手続きがなされた後に、やっと相続人への遺産分配となる、プロべート(Probate)と呼ばれる独特の手続きが適用されます。

日本式の相続税(inheritance tax)は財産を受け取る相続人が納付するのに対して、米国式の遺産税(estate tax)は財産を遺し亡くなった被相続人(または遺産そのもの)側で納付するというイメージです。

この相違点は贈与税の納税義務者が日本では受贈者であるのに対して米国では贈与者であることからもその整合性を理解できます。

次に相続税の対象となる財産の範囲に関してですが、日本では日本国籍者の被相続人が亡くなる10年以内に日本国内に住所がある限り、相続人が長年に渡る海外在住者であっても、国外に所在する相続財産も含めてすべて日本での相続税対象となります。

一方、米国には「ドミサイル(Domicile)」という独特な考え方があり、銀行預金や有価証券等は被相続人の国籍地(または居住地)の管轄にゆだねられる一方で、不動産に関してはその所在国での相続手続きと遺産税の支払いが必要となります。

すなわち本邦在住の日本人が、米国不動産を所有したまま亡くなると、その遺族は日米両国での税務ならびに名義変更などの相続手続きを同時に取り進める必要が出てきます。

実際には米国遺産税の控除額は大きく、日米租税条約による二重課税の回避もありますので、日米両国で遅滞なく必要な民事的並びに税務的な手続きをする限り税負担が倍になるということではありません。

また米国ではプロべート手続きを避けるために「取消可能生存信託(Revocable Living Trust)」の設定が流行していますので、米国不動産を所有する日本人としても、それを真似てみることも可能です。

しかし日米両国での税務対策とスムースな名義変更を含めた相続をするには、いかなる場合でも現地での税理士と弁護士を起用することが不可避となり、費用と時間が相当に掛かることでしょう。

相続人が語学力に不安がある場合、日本語対応可能な業者または専門家に丸投げできるのかもしれませんが、その場合は委託先の「養分」となり続けて、支払い総費用が相続財産価額を上回るような悲劇も起こり得ます。

相対的に法整備も万全で専門家も多い米国での不動産ですらこのような状況の一方で、最近の海外不動産広告には、ついひと昔前まで内戦に明け暮れていたような東南アジアの小国での投資物件すら見かけます。

包括的なカントリーリスク管理という意味で、投資家自身がどの程度その国の民法・相続税法等の基礎を理解して購入しているのかが他人事ながら心配になります。

追記:

税制改正により2021年確定申告分より、個人が購入した海外不動産に関して、「国外中古建物の減価償却費に相当する部分の金額については生じなかったものとみなす」こととなり、それまで富裕層の間でブームとなっていた節税策に封印がなされました。

No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算|国税庁 (nta.go.jp)

国税庁の本来の主旨に加えて、この通達が出口または相続戦略のない将来に禍根を残す安直な海外不動産投資への抑止力にもなれば、それは一石二鳥のように感じます。


2023年08月31日

#032 簿記の素敵さについて個人事業主の素人が少しだけ語る


30年以上も会社勤めをしてきましたが一貫して営業部門であったため、自ら帳簿付けをした経験は一度もありませんでした。

取引先財務状況の確認、事業投資先の経営判断などの為に、多くの決算書類(損益計算書、貸借対照表等)に触れる機会がありましたが、それは簿記の結果としての「完成品」に接してきただけであり、自らがその作成過程に入り込んだことはなかったのです。

しかし早期退職後に青色申告者の立場で個人コンサルティングビジネスを始めた頃に、簿記を基礎から学び直し、その証として日商簿記検定3級を受験してみようという気持ちになったことがありました。

きっかけは開業時に購入した会計ソフトの箱に書いてあった「マニュアル通りに入力すれば誰にでも簡単に決算書類が作れる」的なフレーズです。

そこに他意はないのでしょうが、「簿記を知らなくても、情報だけ入力すればあとはこっちでやってやる」との挑戦を受けたように感じたのです。

結果として比較的短期間の準備で日商簿記3級に合格できましたが、その喜びは試験合格よりも、「複式簿記の世界」を遅まきながらよく理解できたところにありました。

告白します。

複式簿記という言葉自体は以前から知っていましたが、具体的にそのメカニズムを理解していませんでした。

時系列的な簿記活動の集大成は期間利益を示す損益計算書だけだと思っていました。

資産、負債、純資産の状況を示す貸借対照表は、日々の仕訳とは実質無関係に、在庫、銀行預金残高、未収金、未払金等々の項目を独立した作業として期末時に「棚卸し」をすることによって作成するものと思っていたのです。

これまで数えきれないほどの決算書類に目を通してきたにもかかわらず、貸借対照表も日々の記帳の延長上で完成させていくことに思いを寄せなかったことを恥じました。

基礎的な商業簿記だけが対象である3級合格者ごときの感想ではありますが、簿記の世界は小宇宙のような空間でした。

簿記の実務は一つ一つの実現した取引をその「原因」と「結果」に分けて仕訳するところから始まります。

そしてその原因と結果に勘定科目という名のラベルをそれぞれ貼って行き、刹那的に現れては消える運命にある動作性の高い「費用」「収益」関連と、取りあえずは継続する生命を与えられた状態性の高い「資産」「負債」「純資産」関連に分類していきます。

その仕訳の作業を繰り返していくと、(決算時に必要な調整はありますが、)実に自然に期間損益のみならず、決算日時点での財産一覧表までもができあがるという魔法のような仕組みなのです。

おかげさまで事務所の帳簿付けにおいても、取引の因果関係の中で、ひとつひとつの経理処理に取引金額を軸としてての「原因」と「結果」を考える習慣がつきました。

個人事業主としての私のお気に入りの勘定科目は、事業用とプライベート用財布間のお金の移動を明確に整理する「事業主貸」と「事業主借」です。

この勘定科目をもってすれば、現金商売ではない個人事業主として不必要に事業専用の現金勘定を設定することなく、且つ、事業とプライベートの公私混同に悩まされることもなく、経理処理をしていくことができます。

具体的には、事務所関連の用事で個人所有の交通系ICカードを利用しても、「借方:旅費交通費(費用)」「貸方:事業主借(負債)」と処理すればそれで済みます。

また、小規模企業共済掛金の支払いの場合には、「借方:事業主貸(資産)」「貸方:普通預金(資産)」とすれば、個人事業用に使用している銀行口座からの引き落としであっても、事業所得への経費算入にはできない支出との分離が簡単に可能となります。

そして年末に累積した事業主貸(資産)と事業主借(負債)の累計額を、総額が少ない方の金額にあわせて相殺して、余った方の金額を翌期に繰り越すか、一方が極大化する傾向にあれば、年末に元入れ金との調整をすれば決算も完了していきます。

2022年4月から新しい指導要綱に基づいた高校家庭科での金融教育が始まりました。

今後は金融リテラシーに必要な基本概念の1つとして、「複式簿記」の仕組みと考え方の基礎についても取り入れるべきと考えます。

追記:

自宅からさほど遠くないところにある、とある商業高校が簿記3級試験の受験会場でした。

正面には昔ながらの黒板がある教室での小さな生徒用机の椅子に着席したのは何十年ぶりだったでしょうか。

3級ということもあり、受験生の年齢層は比較的若いようでした。

届いた受験票には「電卓またはそろばんが持ち込み可」とありました。

おかっぱセーラー服か詰襟学生服姿の商業高校生が、鞄から取り出したそろばんを豪快に弾いて受験する姿を見たかったのですが、残念ながら私の教室は全員電卓持参者でした。

電卓を使わないそろばん持参の受験生が今も本当に存在するのか、実は気になっています。

2023年08月10日

#031 話すレベルで書くことへの違和感(アウトプットを考える)


同じアウトプットでも「話す」と「書く」とでは意識すべき点が異なると考えます。

程度問題はありますが「話す時には瞬発力」が「書く時には正確さ」が優先されるということです。

「書く」アウトプットでは本人の納得が行くまでの構成検討や文章推敲が可能な一方で、「話す」アウトプットでは事前準備が可能な講演等を除いて、その余裕はありません。

この違いについて、FP資格取得者が実務にてアウトプットをする場面を見てみます。

事前に質問内容が知らされていない相談会等と、セミナー講師としてプレゼン資料を作成する際のアウトプット方法に関する優先順位を取り上げます。

無論、瞬発力優先の会話形式の相談会などでも、回答内容そのもののピントがずれているのであればそれは問題外です。

そのような根本的なミスがなく、瞬発力をして全体論として正しい方向性を示すことができるのであれば、話すアウトプットとしては及第点に達しています。

細部への完璧に近い正確性を求めた結果、何も喋れなくなることより遥かに立派であるということです。

詳細な関連情報に関しては後日調べた上で、別途回答すればよいのです。

一方でセミナー用資料作成等に織り込まれる情報に関しては緻密かつ正確であることがそのアウトプットとしての大原則となります。

書く内容に関して少しでも自信がもてないことが出てくるのであれば、一次資料にまで遡及して正確さを優先させる姿勢が求められます。(尚、実際の講演の際にどこまで細部に渡っての話をするかはまた別の問題です。)

次にこの瞬発力と正確さの優先バランスをノンネイティブとしての英語アウトプットのケースで見てみます。

例として「私たちは幾つかの情報について議論してきた」という日本語を英訳する場面を想定してみます。

この英訳を会話の中で日本語の直訳に近く瞬発的に「We discussed about some informations.」と言ってしまうことは、ノンネイティブである限り(相手にもその意味は伝わりますし)、正確な英語が出てこないことを理由に沈黙するより遥かに有効です。

一方、書く英語では「We have discussed some pieces of information.」と「時制においては現在完了形を使い、discussに関しては他動詞なので前置詞を入れずに目的語を取らせ、informationは不可算名詞なのでpieces ofを前に置き複数的表現にする」という正確性がないと、その英文内容の信憑性にまで疑問を持たれかねません。

しかし現実には瞬発力が要求される「話す英語」だから許されるようなノンネイティブ的な基本的間違いを、高等教育を受けてきた人ですら、正確さが必要な「書く英語」にも垂れ流してしまっている英作文をよく見かけます。

英語を書くことに関しては中学高校で学んだ程度の文法知識があれば、細部に自信が持てない時でも参考書や辞書等を利用することにより、かなり正確な文章を書くことができるにもかかわらずです。

これではいつまでも英語力は向上しません。

昭和の漫画吹き出しにでてくるような「アタシ、ガイコクジンアルヨ、二ホンゴムズカシイネー」的英語は、話すアウトプットでの旅行会話レベル程度にまで抑えておかないとモッタイナイと感じます。


追記:


本題からは逸れますが、英語の話をしましたので私自身が実践してきた「ノンネイティブとして話す英語のコツ」を2つ程共有致します。

(1)正しいカタカナで発音する。

「カタカナ読みの英語は通じない」と言われますが、正しくカタカナ表記すれば日本人として十分に通じるカタカナ英語は実はたくさんあります。

money : マネーではありません。マニーと言えば通じます。

Yokohama Stadium : スタジアムでもスタディアムでもありません。ステーディアムです。マツダスタジアムでも同じです(笑)

Liquid:リキッドではなくリクイドと発音して下さい。通じます。金融用語でよく使われるLiquidityはリクイディティですよね。

(2) 発音できない単語は発音できる単語と組み合わせて補完する。

例えば、日本でも最近人気のデュワーズ(Dewars)というスコッチウイスキーがありますが、アメリカのバーなどでノンネイティブである日本人がこれを注文してもまず理解してもらえません。

スペルアウトして伝える方法もありますが、あまり格好よくありません。

そこで「May I have a Scotch, Dewars?」と、Scotch(スコッチ)という日本人発音でも通用する単語を同格的に持ってきてから具体的ブランド名を続けて、聞く相手の想像範囲を狭めて伝わるようにしました。

ノンネイティブの話す英語アウトプットはちょっとした工夫で伝わり方が劇的に改善する場合もあるというオマケ話でした。

2023年07月17日

#030 雇用保険の公共職業訓練所での日々

 

失業保険とも呼ばれる雇用保険の基本手当を受けとるにはハローワークに出向き「求職の申し込み」をする必要があります。

基本手当の正式名称は「求職者給付」であり、それを受給できるのは「失業の状態にある人」だけです。

失業者とは以下の3条件に該当する人と明確に定義づけられています。

1.積極的に就職する意思があること

2.いつでも就職できる能力(健康状態、環境など)があること

3.積極的に仕事を探しているにもかかわらず現在職業に就いていないこと

すべての条件を満たしていることを証明するためには「客観的に確認することができる仕事探しの実績」が必要となり、これは「求職活動実績」と呼ばれています。

求職活動実績を4週間毎の「認定日」ごとに最低2回作ることができないと、その期間中の基本手当は支給されません。

また2回以上の求職活動実績を作ることができたとしても、「呼出日」とも言われるハローワーク指定の認定日に来所しない場合も支給されません。

求職活動として認められる実績にも詳細な例示があり、求人情報の閲覧、知人への紹介依頼等は該当しません。

具体的に認められる活動の基本は「求人への応募」であり、それ以外ではハローワークでの「職業相談」などに限定されます。

このように雇用保険の基本手当を受給する要件は厳しいものですが、受給期間中の求職活動も認定日への出頭も事実上免除される例外として「公共職業訓練」の受講があります。

訓練期間は一般的に3ヵ月間で民間の専門学校等に委託されるケースが多いようです。

受講期間中は通常の基本手当に加えて、訓練所への交通費としての「通所手当」と昼食代相当の「受講手当」も支給される手厚い待遇です。

教科書代の一部自己負担を除き、入学金・受講料も無料となります。

公共職業訓練は「介護技術」「情報通信」「商業実務」など多岐の分野に渡ります。

私はワード、エクセル、パワーポイントのMOS ( Microsoft Office Specialist ) 資格取得を目標とする「パソコンビジネス科」に応募して、書類選考並びに面接を経て受講を許可されました。

「洗礼」を受けたのは、委託を受けた民間パソコンスクールでの初日オリエンテーションの時でした。

「電車遅延による遅刻も認めません。早めに家を出てください。もちろん訓練中の居眠りと私語は厳禁。欠席は就職面接日に限り認めます」と、うら若き女性主任講師は冒頭から厳しい口調で話し始めました。

毎日、午前と午後の授業の始まりと終わりに日直当番が「起立、礼」と声掛けし、講師に対して「よろしくお願いします」「ありがとうございました」と受講者全員声をそろえての挨拶を励行するようにも命じられました。

そうです。ここは「学校」ではなく、刑務「所」や収容「所」と同じ語尾を持つ「訓練所」だったのです。(そういえば、定期券代支給の名称も「通学手当」ではなく「通所手当」でした。)

私が参加した訓練所定員は20名で、女性が8割程度でした。

訓練は平日毎日、朝9時過ぎから夕方4時まで50分の昼食時間と1時間ごとに10分間与えられる休息時間を除いて行われます。

私の「所」では土足で教室に入ることは許されず、持参の上履きに履き替えます。

日直号令による挨拶と出席点呼の後は、貸与されたパソコンと机を5分ほどかけて、文字通り黙々と磨きます。(コロナ対策ということでしたが、これも「所」生活を自覚させるための儀式なのでしょう。)

それからの約10分間は、これまた黙々と個別にタイピングの練習をしてから毎日の学科講義・実技演習に入る流れです。

この段階で気分は既に始業前の富岡製紙工場の女工さんのようにキリリと引き締まりますから不思議です。

私は3ヶ月間の特訓を経てMOS資格を無事に取得し、基本なに不自由なくオフィスソフトを操れるようになりました。

考えてみれば分かることですが、訓練の委託を受けた学校側にとっての「お客」は訓練生ではなく委託者のハローワークです。

与信問題もなく安定集客を見込める認定訓練所としての立場を保持する為には、預かった訓練生の出席率、資格取得率、訓練終了後の再就職率等が重要な指標となるのでしょう。

訓練最終日には修了式が厳かに執り行われて、主任講師からの祝辞、訓練生代表の答辞の後に修了証書が1人ずつ手交されます。

私も無事に「出所」できました。

帰りに寄った立ち飲み屋での1本の煙草と1杯の焼酎はまさにシャバの味でした。

コロナ禍のある冬の思い出です。

追記:

3か月間も同じ「所」にいると、訓練生間でもそれなりの仲間意識が育まれてきます。

「午後は就職面接が入りましたので今日はお先に失礼します」と早退する訓練生に「頑張って」と他訓練生が声をかけて見送ります。

それはまるで戦地に赴くために今離陸せんとする飛行兵を、滑走路に整列した他の隊員が両手を大きく振って送り出す前線基地のようでした。

2023年07月02日
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